就業規則相談所

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アーク証券事件

(東京地裁平成12年1月31日判決)

【事案の概要】

Xらは、証券会社であるYに雇用され、営業社員として勤務している者であるが、Yは、平成6年11月1日に就業規則(給与規定)を改定して、従来の職能資格制度、職能給制度に代えて、変動賃金制(能力評価制)を導入した。


【判決の要旨】

Yの従業員は、従前の職能資格制度、職能給制度の元での安定した賃金収入を得られる保証を失い、不安定な状態に置かれることとなった。(Xらの賃金が大幅に減額されていること、役職員が大幅に減少しており退職を余儀なくされている者が相当数生じた事実が推認できること等を認定した上で、)本件変動賃金制(能力評価制)の導入により、Yの従業員は、賃金減額の可能性が生じたというにとどまらず、多くの従業員が実際に不利益を受けることとなったものということができ、その不利益の程度も大きいものといわざるを得ない。

就業規則の不利益変更については、(中略)最高裁判所平成9年2月28日第二小法廷判決(第四銀行事件)の判示しているところに従い、変更の必要性及び変更後の内容自体の合理性の両面から見て、変更による不利益性を考慮してもなお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するか否かを判断すべきである。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

(変更の必要性について、)受入手数料、殊に株式売買委託手数料が激減したことにより営業収益及び経常利益が悪化したため、Yが従業員給与を削減する必要があったことは、これを肯定することができる。

(変更の合理性について、)本件変動賃金制(能力評価制)は、これを一般的な制度として見る限り、不合理な制度であるとはいえないが、従前採られていた一般的な意味での職能資格制度、職能給制度と比べると余りに大きな制度の変革であり、Yの従業員は、前記のとおり、職能資格制度、職能給制度の下での安定した賃金収入を得られる保障を失い、不安定な状態に置かれ、大きな不利益を受けている。Yの従業員は、本件変動賃金制(能力評価制)の下で、営業実績を挙げれば従前の職能資格制度、職能給制度の下よりも早期に昇格する可能性が生じたといえないことはないが、従前の職能資格制度、職能給制度と比べて昇格の度合いが速まったことを認めるに足りる証拠はないから、この抽象的な可能性をもって不利益性が一部減殺されるものということはできない。そうすると、Yに業績の悪化に伴い人件費を削減する経営上の必要性があり、かつ、本件変動賃金制(能力評価制)が一般論として合理性を有する制度であるというだけで直ちに変更の合理性を肯定することはできない。(中略)

本件変動賃金制(能力評価制)は、Yに業績の悪化に伴いこの制度を導入する経営上の必要性があったことは肯定できるし、本件変動賃金制(能力評価制)が一般論として合理性を有する制度であることは否定できないが、代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず、あるいは既存の労働者のために適切な経過措置が採られているともいえず、あるいは不利益を緩和する措置が何ら執られていないとしても、現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはそのような不利益を受けてもやむを得ない変更であると納得できるものである等、Yの業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認めることもできない。

労働者にここまで大きな犠牲を一方的に強いるものであるとすれば、変更の必要性としては、Yの業績が著しく悪化し、本件変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要するが、本件変動賃金制(能力評価制)導入当時そのような高度の必要性が存したことを認めるに足りる証拠はないから、変更の合理性を肯定することはできない。

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