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大曲市農業協同組合事件

(最高裁昭和58年11月25日第二小法廷判決)

【事案の概要】

組合Yは、Xらが在職していた訴外旧A農協等七つの農業協同組合が合併して新設された農業協同組合である。旧A農協には、従来より退職給与規定が存したが、合併後にY組合が新たに退職給与規定を作成・適用したが、この新規定は、Xらの退職金支給倍率を低減させるものであった。他方、Xらの給与額は合併に伴う給与調整等により相当程度増額されており、退職時までの給与調整の累積額はおおむね本訴の請求額に等しい。また、合併の結果Xは休日・休暇、諸手当等の面で旧A農協当時よりも有利になり、定年も男子は1年間延長された。


【判決の要旨】

当裁判所は、昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決(秋北バス事件)において、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。右の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによつて労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

これを本件についてみるに、まず、新規程への変更によつてXらの退職金の支給倍率自体は低減されているものの、反面、Xらの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴におけるXらの前記各請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によつてXらが被つた実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではないのである。他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもないところ、本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することができなかつたことは前示したとおりであり、特に本件の場合においては、退職金の支給倍率についての旧花館農協と他の旧六農協との間の格差は、従前旧花館農協のみが秋田県農業協同組合中央会の指導・勧告に従わなかつたことによつて生じたといういきさつがあるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後のY組合の人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。加えて、本件合併に伴つてXらに対してとられた給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、おおむね本訴におけるXらの前記各請求額程度に達していることを窺うことができ、また、本件合併後、Xらは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであつて、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償としてとられたものではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たつて考慮することのできる事情である。

右のような新規程への変更によつてXらが被つた不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによつてXらが被つた不利益を考慮しても、なおY組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。したがつて、新規程への変更はXらに対しても効力を生ずるものというべきである。

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