判例―役職定年制と賃下げ― (2003年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

賃下げの不利益大きすぎる

被告の銀行は、55歳に到達した行員を役職から外し、専任職に移行させる新制度を導入しました。これにより、高齢者の賃金、賞与は大幅に減らされました。いわゆる「就業規則の不利益変更」に関する紛争です。裁判所は、役職制度の変更に限っては合理性を認めましたが、賃金減額部分については「あまりに不利益が大きすぎるため」無効と判示しました。

今回の事件は、「高齢者の賃金を下げたい」という発想が原点で、その隠れた目的を達成するために既存の「役職定年制」という枠組を利用しようというものでした。

この安易な取り組みに対し、裁判所は、はっきり「ノー」という回答を突きつけた形になります。本判決に関する世間的な評価は、「銀行側の全面敗訴」というものです。新制度導入の目的は、賃金の大幅カットなのですから、そちらが否定されれば意味がないのです。経営側の攻撃は、完全に空振りに終わったわけです。

しかし、役職定年という問題を考えるうえで、本判決は重要な意味を持っています。なぜなら、60歳定年実施後の役職定年導入も原則的には可能という判断が下されたからです。

判決文では、「被上告人は、発足時から60歳定年制であったのだから、55歳以降にも所定の賃金を得られるということは、単なる期待にとどまるものではなく、該当労働者の労働条件の一部となっていたものである」「55歳定年の企業が定年を延長のうえ、延長後の賃金水準を低く抑える場合と同列に論ずることはできない」と認定しています。すでに定まっている労働条件に手をつけるから、不利
益変更の問題が生じるのです。

判決文のうち、役職定年に関するエッセンスは、次のパラグラフに集約されます。「本件就業規則等変更は、まず、55歳到達を理由に行員を管理職階または監督職階から外して専任職等に発令するようにするものであるが、右変更は、これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものとは認められない。したがって、職階および役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることが相当である」。

つまり、役職定年制そのものの導入については、実務上、問題ないということです。

しかも、賃金ダウンが一切許容されないわけではありません。この点については、「賃金が減額されても、これに相応した労働の軽減が認められるのであれば、全体的にみた実質的な不利益は小さいことになる」と一般論を述べています。

本事件では、専任職発令の前後を通じてほぼ同じ職務を担当している行員が多く、課長の肩書きを外された人も従前と変わらない職務についています。「賃金削減を正当化するに足りるほど職務の軽減が図られているとはいえない」状況にありました。仮に、賃金ダウンに相当する職務軽減がなされていれば、勝敗は逆になったはずで、役職定年の合理性は、この一点にかかっています。

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