判例 法定金額超えていればOK (2004年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

セールス手当でカバー

定額払い制を取っていても法違反とならない場合もあります。本欄では、代表的な判例として昭和63年の関西S販売事件を取り上げます。外勤セールスマンには「セールス手当」が支払われていましたが、労基法の計算方法に基づく割増賃金は一切払われていませんでした。しかし裁判所は、セールス手当で割増賃金分は力バーされていると判断しました。

関西S販売事件 大阪地方裁判所(昭63・10・26判決)


訴えを起こした外勤セールスマンは、直接、定額払いの違法性を追及したわけではありません。セールス手当は、「外食費、駐車違反の反則金等外勤に伴うさまざまな支出に対する補償である」から、セールス手当とは別個に法所定の割増賃金が支払われるべきだと主張したのです。その根拠は、「以前勤めていた会社ではそのような取扱いであったから」というものです。

実際、営業手当、その他の名目で支払われる手当は、ときに「クツ代」などと呼ばれるように、外勤特有の事情に配慮する側面を有します。しかし、残業代相当という意味合いを持つことも否定できません。

管理監督者の役職手当も、役割に対する対価と時間外相当分と両方の役割を持つ会社が多いようです。結局のところ、個々の手当の性格は、会社の実情に合わせて判断するほか、ありません。

裁判所は、給与規則の趣旨や会社従業員の証言に基づき、「セールス手当は休日労働を除く所定時間外労働に対する対価として支払われるものであり、いわば定額の時間外手当としての性格を有することが認められる」と判断しました。

そこで、この定額払いが法に違反しないかどうかが問題になります。判決文では、違法とならない条件を次のように要約しました。「労働基準法第37条(割増賃金)は時間外労働等に対し一定額以上の割増賃金の支払いを命じているところ、同条所定の額以上の割増賃金の支払いがなされる限りその趣旨は満たされ同条所定の計算方法を用いることまでは要しないので、その支払額が法所定の計算方法による割増賃金額を上回る以上、割増賃金として一定額を支払うことも許される」。

古い行政解釈にも、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、法第37条の違反とはならない」としたものがあり(昭24・1・28基収3947号)、その考え方ともピッタリ一致します。

実務的に重要なのは、判決文が「現実の労働時間によって計算した割増賃金額が右一定額を上回っていた場合には、労働者は使用者に対しその差額の支払いを請求することができる」と述べている点です。逆にいうと、使用者が差額を払わないと、法律違反になるということです。

定額払い制を取った場合、常に定額払いの金額が法所定の割増賃金額を上回っている必要があります。そういう意味では、法に沿った制度運用をする限り、残業代の節減効果は、期待できないという結論になります。

 

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