判例 割り増し賃金を基本給に含む約束 (2005年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

時間外手当込みと認められない

警備員の待機時間が労働時間に該当するという判断は、多くの裁判で支持されています。しかし、会社側には、最初に「こういう勤務内容で、これだけの賃金を払います」と説明していたのだから、労働者も納得のうえで契約を結んだはずだという思いがあります。時間外・深夜割増賃金はすべて基本給に含む約束だったという会社側の主張は、認められないのでしょうか。

K警備保障事件 大阪地方裁判所(平16・3・31判決)


新入社員が1ヵ月残業を繰り返した後、時間外手当を請求したら、社長から「当社では『時間外手当込み基本給制』を採っている」といわれてびっくりしたなどという話を聞きます。毎月、一定の時間外労働が存在するのを見込んで、最初から基本給の額を決めてあるというのです。この社長さんの主張が通れば、労務管理はぐっと簡単になりますが、もちろん、そうはいきません。

本事件では、15時間の夜勤に就く警備員の労働条件が問題になりました。警備ですから、勤務の大部分は異常の発生に備える待機時間です。

会社は15時間分の賃金を丸々払う必要はないと判断しました。そこで、15時間のうち、5時間を便宜的に休憩時間とし、深夜勤務に該当するのは3時間と定めました。休憩時間の割り振りを一応決めましたが、実際の勤務状況はこれと大きく異なっていました。

そこで、警備員側はすべての時間について待機の義務が課せられているのだから、15時間全部が労働時間に該当すると主張しました。これは、最高裁(大星ビル事件、平14・2・28判決)をはじめ、各種判決で支持されている見解です。

本件大阪地裁も、「アラーム警備業務の場合は、制服を着用し、担当するユーザーの鍵の入った鞄を常に携行し、出動の指示があった場合には、即座にこれに対応しなければならず、特段出動の指示等や異常を発見しない限りは、車内で仮眠等をすることも可能な時間帯ではあるが、労働からの開放が保障された休憩時間ということはできない」と述べ、労働時間と認定しました。

結局、食事等に要する2時間を除いた13時間が労働時間と判定され、時間外・深夜に該当する分については割増も含め、賃金支払が命じられています。

しかし、会社としては、勤務内容と賃金を明示したうえで契約を結んでいるのですから、後から全部の時間について賃金を払えといわれても、承服できません。そこで、夜勤者の賃金には「最初から、時間外手当や深夜手当を含む約束があった」と反論しました。

これに対し、裁判所は「労基法の制限を超える労働時間を定めて、その賃金が時間外労働割増賃金を含むものであると労働者と合意しても、これは労基法の潜脱であって、その効力を認めることはできない」と断じています。

ですから、通常の勤務者についても、「時間外手当込み基本給制」などという乱暴な制度は、当然、認められません。

 

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