判例 営業報奨金は残業代か? (2006年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

みなし労働時間制と認められず 残業代の定額払いにも当たらない

営業マンに対して、売上高等に応じて「営業報奨金」を支払っていた会社で、退職者が割割増金の支払いを求めて裁判を起こしました。会社は「営業社員には事業場外みなし制を適用していた」「時間外割増に代わるものとして営業報奨金を支払っていた」と主張しましたが、裁判所はいずれの主張も退けています。営業マンだからといって、手当の支給だけで済まないケースもあるという実例です。

K社事件 東京地方裁判所(平17・9・3判決)


この会社では、以前は時間外見合いとして定額の営業手当を支給していました。しかし、「営業の活性化」を図るために、それを業績連動の「営業報奨金」に衣替えしたのが、紛争の発端です。会社は制度のマイナー・チェンジに過ぎないと考えていたようですが、法律的にいえば大きな問題を含んでいたのです。

まず、「営業社員にはみなし制を適用していた」という主張からみていきましょう。会社は、営業社員から直行届、直帰届の提出があると、就業規則で定める始業時間から就業時間まで働いたとみなし、IDカードに記録していました。これだけみれば、労基法第38条の2本文の「労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいときは、所定労働時間労働したものとみなす」という規定を適用できるようにも思えます。

しかし、裁判所は「営業社員を含む全社員が、その出勤時刻、退勤時刻をキャッシュカードと兼用のIDカードに記録されることとされ、その結果が就業状況月報に集計されていたこと、出勤時刻、退勤時刻の記録を失念した場合、打刻忘届の提出を要し、遅刻、早退の場合には、欠勤の扱いとされていたこと」を挙げ、会社は営業社員の労働時間を管理していたと判断しました。

さらに、事業場外みなしの要件として、「無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受ける場合、事業場において訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受ける場合等は、みなし労働時間制の適用はない」(昭63・1・1基発第1号)という通達がありますが、判決文では、この会社が「営業社員の携帯電話の利用状況を把握し、訪問先や訪問時刻等を報告させていた」という事実も指摘しています。

次に、「時間外割増に代わるものとして営業報奨金を支払っていた」という主張ですが、以前の営業手当が時間外見合いという性格を持っていたのは確かです。しかし、新しい営業報奨金は、「実際の労働時間とは関係なく、売上高、社内生産高、粗利益額及び回収額から算定される」という仕組みに変わっていました。ですから、「およそ営業報奨金を時間外割増増賃金に代わるものということはできない」という結論になります。

営業社員に営業手当を支給するときは、それがどのような性格を持ち、事業場外みなしとどのような関係にあるのか、明確に整理しておく必要があるといえます。


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