判例 パートの自動昇給を認める義務はない (2006年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

店長評価が必須条件 形式要件を満たしてもダメ

仕事・能力給を取り入れる場合、職務と賃金・処遇の関係を明確に示すのが原則ですが、この考え方を徹底させると、「私は、これだけの仕事をしているのだから、いくらの賃金をもらえるはずだ」、そう主張する従業員が出てきてもおかしくありません。裁判所は、「会社にも一定の裁量権があり、形式的に基準を満たしても機械的に昇給が認められるわけてはない」という判断を示しました。

Mフーズ事件 東京地方裁判所(平17・12・28判決)


その昔、パートタイマーの賃金決定は至極単純でした。基本となる時給の上に勤続に応じて何がしかの加算をしていくスタイルが一般約で、きちんとした考課制度もなく、出勤率が最も重要な評価項目とみなされていました。

しかし、最近では、パートの戦力化という方針に基づき、正社員に準じて、きちんとした人事処遇制度を整える企業が増えています。

本事件で訴えられた大手外食チェーン店でも、15段階の能力レベルや職位を基準とする人事体系が導入されていました。判決文によると、「時給は研修時給からスタートし、それ以降は、3種類の研修プログラムの進行度と店長評価により決定する」という実態にありました。

外食チェーンですから、個々の店舗は大きくありません。制度の運用がルーズになると、パートの処遇は「店長の心証ひとつで決まる」という危険性をはらんでいます。

訴えを起こした元パートは、「低階位のパートタイマーの場合は、仕事の能力が要求されるレベルに達したときは、ほぼ自動的に昇格、昇給が認められるべきところ、仕事のレベルや仕事量との関係で時給が不当に安く抑えられていたのは人事権の濫用に当たる」と主張しました。

本人としては、研修テキストをきちんと終了しているし、「早くから深夜キャプテンの欄に時間帯責任者として署名したり、金庫や券売機のカギを携帯するなどシフトリーダーがやるべき仕事もしていた」という自負もあります。会社の基準に照らせば、昇給して当然だという思い込みがありました。

しかし、店舗の実態をみれば、深夜勤務は原則2人体制で、「本人が新人と組んで仕事をするようになってから、新人指導、時間帯責任者としての役割を果たしたとしても、ある程度は許容の範囲と考えざるを得ない」という実態にありました。

結局、裁判所は「会社は組織の一員としての自覚と責任を醸成し、業務への精励を期して、賃金・評価制度を設定していることからすると、単に仕事のスキルや担当業務のみではなく、個々の従業員の意欲・自覚など総合評価の上に立った店長(正社員)による評価対象者の把握を予定しているものと考えられる」と述べ、「店長の評価を得ないでも自動的に昇格し、昇給するという立論は失当」と判断しています。会社は自らの評価に基づき従業員の処遇を決定する裁量権を有する点を確認したもので、世間常識からいっても当然の結論といえるでしょう。


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