判例 配転先に近隣事業所を選ぶ義務ない (2007年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

配転命令に合理性ある 一般的取り扱いの範囲内

業務縮小等により配転が必要になったとき、会社は従業員負担を軽減するため、近隣の事業所を選ぶのが普通です。しかし、これは絶対的な義務なのでしょうか。本事件は、複数のカンパニー系列を持つ大企業の事案ですが、同一カンパニー内の異動を優先し、遠隔地への配転命令が下されました。裁判所は、社内の一般的人事異動ルールに沿うものとして、違法性を否定しました。

K県労委事件 横浜地方裁判所(平18.2.28判決)


左翼系の少数組合員が遠隔地への配転命令は不当労働行為だと主張し、地方労働委員会の救済命令を勝ち取りました。本事件は、会社がその取り消しを求めて、地裁に提訴したものです。

そういう特殊性はありますが、配転命令を下す際、近隣事業所に限定すべきか否か、という興味深いトピックを扱ったものですので、その部分にスポットライトを当てる形で、裁判所の判断をみてみましょう。

電機メーカーである会社は、空調・設備部門の主要部分を海外企業との合弁会社に移管しました。同部門の大多数の従業員は合弁会社への転籍に合意しましたが、少数組合員はこれを拒否しました。

会社としては、他の事業所への配転という形で、雇用の継続を図るほかありません。本人たちは神奈川県内の事業所に所属していましたが、会社は愛知県内事業所への転勤を指示しました。

大手電機メーカーですから、全国各地に支社・工場・事業所のネットワークが存在します。そのなかで、「神奈川県在住者にあえて愛知県への転勤を命じるのは、いやがらせではないか」というのが、少数組合員側の主張です。

しかし、裁判所は、事実関係を詳細に吟味したうえで、「不当な動機に基づくものではない」と判断しました。ポイントとなったのは、「関連会社への転籍に応じなかった従業員についてその所属カンパニーの範囲内で再配置することは、本件配転命令当時における一般的な取扱だった」という事実です。ですから、「会社は少数組合員が繰り返し求めていた神奈川県内の事業所への配転の可能性について検討していないが、本人たちの所属カンパニーである『家電機器社』は神奈川県内に事業所を有していなかった」ので、検討の必要性もないという結論になります。

加えて、「上司は、配転命令後、愛知工場で本当にいいのかと意向を尋ねており、最後まで転籍に同意するよう説得」していました。「転籍に応じないことを奇貨として遠隔地に配転しようとの積極的な意図があった」とは考えにくい言動です。

最終約に、裁判所は、「組合活動を決定的な動機として配転命令をしたものとは認められない」と判示しました。一般的な人事異動のルールに基づき、配転の合理性を証明できれば、新しい配属先を近隣事業所に限定する義務はないのです。家庭事情等に必要な配慮を払いつつ、経営の観点から最善と考える人員配置を行えば、権利濫用と判断されるおそれは小さいといえるでしょう。


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