判例 セクハラで休業中の賃金を支払え (2007年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

上司が執拗なセクハラ 心因反応で出社できず

セクハラ裁判というと、慰謝料請求が中心ですが、本事件は、セクハラが原因で休んだ期間中の賃金請求が認められたものです。加害者の男性は、セクハラの後、「ここにいられなくなるぞ」なと退職を強要するパワハラ(パワーハラスメント)行為も行っていました。今年4月から、改正均等法が施行され、企業の対応義務が強化されています。中年管理職を中心に、その行動を厳しく監視する必要があります。

消費者金融会社セクハラ事件 京都地方裁判所(平18.4.27判決)


セクハラにせよ、パワハラ(パワーハラスメント)にせよ、被害者の精神的ダメージは測り知れないものがあります。場合によっては、メンタル不全を発症し、出社拒否状態に陥ります。本事件では、被害者の女性は、1年余の期間、休業を余儀なくされ、経済的にも苦しい状況に遣い込まれました。

そこで、窮鼠猫を噛むで、賃金の支払いと損害賠償を求めて、裁判を起こしました。結果的に、裁判所は、1年余分の賃金と慰謝料100万円、弁護士費用10万円の支払を命じました。

裁判所の認定事実によると、加害者の上司は、食事会の席で女性の身体に触り、抗議した女性に対し、「僕を誹謗中傷しているらしいな」「ここにいられなくなるぞ」などと圧力をかけ、退職を示唆するような言動を採りました。この上司は、他の女性に対しても、セクハラじみた行為を行っていたことも判明しました。

しかし、一方で、「勤務時間中に呼び出され、抱きつかれた」「セクハラに抗議したことが原因で、成績評価を落とされた」等の女性の主張は退けられています。

会社が必要な対応を採らなかったという点についても、「女性の代理弁護人から内容証明郵便が届くまで、上司とトラブルがあるとされるだけで、セクハラの事実は明らかにされていなかった」という理由で、「適切な調査・対応を怠ったとはいえない」という判断が下されています。

それでも、会社に対し、賃金と慰謝料等の支払が命じられたのですから、セクハラ問題の難しさが分かります。女性の月給は17万円強でした。会社にとっては、慰謝料より、労務の提供のなかった1年余分の賃金支払の方が、よほど痛手です。

なぜ、会社は賃金を払う義務を負うのでしょうか。民法第537条第2項では、「債権者の責めに帰すべき事由によって履行をなすこと能わざるときは、債務者は反対給付を受ける権利を失わず」と規定しています。これを本件に当てはめると、「会社の責任(セクハラ上司の監督不行き届き)で働けなかったときは、労働者は給料を受ける権利を失わない」となります。

今年4月から改正均等法が施行されていますが、それに合わせ、セクハラ指針も大幅に修正されています(平18.10.11厚生労働省告示第615号)。「行為者に対して懲戒を科すほか、被害者と行為者の間の関係改善、配置転換、行為者の謝罪、被害者の不利益の回復等」の措置を講じる義務を課しているので、注意が必要です。

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