判例 私用メールで減給の懲戒は重すぎる (2007年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

禁止の指示が不徹底 頻度も時間も多くない

社員が業務用のパソコンで、インターネットを閲覧したり、私用メールを発したりするのは、職場ては珍しくない光景です。しかし、なかには神経を尖らせる上司もいらっしゃるでしょう。程度問題といえますが、現実には、どこまで「度が過ぎれば」懲戒等の対象になるのでしょうか。本事件では、「日頃の管理が不徹底」等の理由で、権利濫用と判断されました。

Z刻人健保組合H事件 札幌地方裁判所(平17.5.26判決)


社員は1日のうち、少なからぬ時間を職場で過ごします。その間、個人的な所要を済ますため、会社の電話、コピー機、ファックス等を使ったり、場合によっては備品を借用したりすることもあるでしょう。厳密にいえば、規則違反ですが、通常、会社はいちいち費用の清算を迫ったりはしません。

ところが、社員に個人専用のパソコンがあてがわれるようになると、個人目的の無断使用の問題がクローズアップされてきました。パソコンの場合、遠目には、仕事をしているのか、他の目的で使っているか分かりずらいため、人によっては「目に余る」ケースも目立つようになってきました。

しかし、「どの程度なら許されるのか」、人によって判断の基準は異なります。本事件で、健保組合は、「都下の私用メールを黙認し、自らも頻繁に利用している」という理由で、課長を係長に降格しました。同時に3ヵ月にわたって基本給の10%カットも行っています。メール私用の頻度が高かった部下に対しても、同様の減給処分を発令しました。この処分の妥当性が、本事件の争点です。

私用メール等については、一般に、まずパソコンの取扱規定等が定められているか否かが、重要な意味を持ちます。規定があれば、処分の合理性が高まります。

仮に規定がないにしても、会社設備・備品の不正利用として責任を追及するのは可能です。ただし、会社が厳格な態度で臨んでいたなど、ルールの周知徹底がなされていないと、なかなか処分は難しいようです。

本事件でも、「(課長について)私的メールは7ヵ月で28回に過ぎず、1回の所要時間も短時間であること、健保組合には、業務用パソコンの取扱規定がない上、注意や警告がなされたことはなく、管理職においても私的利用の実態があった」等の理由で降格は権利濫用と判断されています。

3ヵ月10%の基本給カットは、労基法第91条の制限を超えていますから、違法です。結局、健保組合側の主張はことごとく退けられてしまいました。

だからといって、パソコンの無断使用が全面的に許されるわけではなく、あくまでも程度問題です。非常に悪質で、従業員の懲戒解雇が認められたケースも存在します。しかし、会社としては、まず社内的な周知・徹底から手をつけるべきでしょう。最低限、「個人的な理由でメールを送受信する」「個人的な理由でホームページを閲覧する」ことを禁じるという文言を、就業規則等に追加しておくのがよろしいでしょう。

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