労災の上積み補償制度と労災保険の減額 (2009年1月号より抜粋)  
     
 

業務上災害で上積み補償をすると労災保険給付が減らされる?

 

Q

安全関係の雑誌等をみていると、「労災上積み補償の水準」といったデータが出ています。以前、会社が補償金を払ってしまうと労災保険給付が減額されると聞いたことがありますが、どのようにすれば「上乗せ」が可能になるのでしょうか。

 

 
 
A

労災保険と別枠給付である旨規定すればよい

労災上積み補償は、大企業を中心に制度化されているものです。トヨタ自動卓とかNECとか超一流の製造業メーカーの場合、死亡で3,200〜3,300万円という高金額を支払っているようです。

労災保険法第64条第2項では、「遺族が労災保険と同一の事由について、損害賠償を受けたときは、その価額の限度で保険給付をしないことができる」と規定しています。うっかり、示談書等に「一切の損害金として金○○円を支払う」などと記載してしまうと、労災保険が止まってしまうなどといわれるのは、このためです。示談する場合には、「労災保険給付に基づく保険給付を除く」点を明らかにしておく必要があり、労働基準監督署ともキチンとすり合せを行っておくべきです。

労災上積み補償制度を設けている会社では、保険給付の減額調整が起きないように、労災保険給付とは「別に支給する」点を明確に規定化しています。解釈例規(昭56.3.26発基第60号)では、「企業内労災補償は、一般的にいって労災保険給付が支給されることを前提としながらこれに上積みして給付する趣旨のものであるので、就業規則等で労災保険給付相当分を含むことが明らかである場合を除き、労災保険給付の支給調整を行わない」と述べています。

大企業がこのような制度を設けるのは、一つには、会社のために働き、事故に遭った従業員(遺族)に対し、手厚く報いる姿勢をアピールするためです。会社に安全配慮上の過失等がなかった場合でも、死亡等した方の遺族には、規定に基づき上積み補償が支給されます。

しかし、そればかりともいえません。会社に安全配慮義務違反があったとき、従業員(遺族)は労災保険給付を受けたうえで、さらに会社を相手方として損害賠償を請求することもできます。上積み補償は、それに対応する意味合いも持ちます。

ですから、上積み補償を受領する際、従業員等に対し、損害賠償請求権の放棄を求めるケースが少なくありません。就業規則上の規定例として、「従業員又はその遺族は、労災上積み補償金を受領する際、民事賠償請求権を放棄するとの文書を提出しなければならない」(石崎信憲「就業規則の法律実務」)といった条文を示す書物もみられます。

こうした規定を設けても、中小企業では、十分な上積み補償額を確保するのは難しいかもしれません。金額が少ない場合、会社に明らかな過失があれば、従業員は上積み補償の権利を放棄して、裁判で争うといった事態も起こり得るでしょう。

 

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