判例 酒気帯び運転のみで免職は酷 (2009年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

教諭の身分考慮しても 懲戒基準の限度超える

飲酒運転に対する社会的批判の高まりを受け、懲戒処分を厳しくする企業・組織も増えています。私的行為中の事故等も処分の対象にしますが、「酒は飲んだが、人は傷つけていない」ケースなどでは、処分にもおのずと限度があります。本事件は教諭の飲酒運転ですが、「職業的に高いモラルが求められる」点を考慮しても「免職は厳しすぎる」と判示されました。

K県教育委員会事件 福岡高等裁判所(平18.11.9判決)


日本は車社会で、そのうえ「酒の上の失態」にも甘いといわれてきました。しかし、危険運転致死傷罪が創設・強化されるなど、風向きが大きく変わってきました。企業でも、飲酒運転には厳しい態度で臨むケースが増えています。

注意を促すのはいいのですが、なかには「ちょっとでも酒を飲んで運転すれば即日解雇」のような「行き過ぎ」の対応もみられるようです。飲酒運転が理由でも、「社会通念上相当であると認められないときは、解雇は権利濫用で無効」(労働契約法ま第15条)とみなされます。

本事件は、中学校の教諭が同じ日に2回、酒気帯び運転をしたこと等を理由に懲戒免職された事案です。公務員の懲戒処分については、人事院が指針を作成しています。飲酒運転にナーバスな企業では、この指針を基に、自社の就業規則を改正する例もあるようです。

さまざまなケースを例示していますが、代表的なものをちょっとご紹介しましょう。「酒酔い運転」と「酒気帯び運転(少し程度が軽い)」という用語を使い分けている点も、参考になります。

  • 酒酔い運転で人を死亡させ、または重篤な障害を負わせた職員は、免職とする。

  • 酒気帯び運転で人に障害を負わせた職員は、免職、停職または減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職および停職とする。

  • 酒気帯び運転をした職員は、停職、減給または戒告とする。

本事件では、教職員については、県の指針で人事院指針より重い処分が定められていました。県は、酒気帯び運転が2回あった点を重視し、「停職処分に該当する行為が複数あったときは、標準例より重い処分を行うこともある」という規定を根拠に、懲戒免職を決定しました。

裁判所は、「教員については、児童と直接ふれあい、これを教育・指導する立場にあるから、とりわけ高いモラルと法および社会規範遵守の姿勢が強く求められる」点は肯定しましたが、「加重処分として免職を選択するについては、経緯、動機およびその後の経過をはじめ日頃の勤務実績に至るまであらゆる事情を考慮する」必要性を指摘しました。そのうえで、「2回といっても実質的には一度の機会に繰り返された」「運転代行を依頼しようとした経緯がある」等を理由に「懲戒処分は厳しすぎる」と判示しました。

飲酒運転撲滅という趣旨は大いに讃えられるべきですが、「単なる酒気帯び運転で懲戒解雇」は難しいと考えるべきでしょう。

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