判例 酩酊後の会議を業務と認めず (2009年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

途中から飲み会に移行 通勤災害に非該当

本事件は飲酒後の事故をめぐるもので、一審(東京地裁)ては通勤災害と認められましたが、高裁では逆の判決が出されました。飲酒を伴う会議は、途中までは業務といえるが、以後はただの「飲み会」に移行し、その後の帰宅は通勤と解されないというのが理由です。「業務と私的飲酒の線引さの難しさ」を思い知らされる事件といえるでしょう。

C労基署事件 東京高等裁判所(平20・6・25判決)


事件の舞台となった会社では、性格の違う会議が二部構成で開催されていました。第一部は純然たる業務会議で、近県の幹部を集めて実施するものです。第二部は、飲酒を伴う会合で、会社(事務管理部)が費用を負担していました。正式な会議の出席者以外も参加し、「社員のきたんのない意見を聴く機会」と位置づけられていました。

事故に遭ったのは、第二部の「縁の下の力持ち」、事務管理部の次長です。次長は、「部長の命令を受け」て、毎回、会合に出席していました。当日も会合の最後までお付き合いをした後、帰宅途中に地下鉄の階段で転倒し、頭蓋骨損傷で帰らぬ人となりました。

一般的に、接待等でお酒を飲み、帰宅中の事故は、なかなか労災と認められません。しかし、本事件の第一審(東京地方裁判所、平19・3・28判決)では、通勤災害に該当すると判示しました。理由は、「本件会合は酒類の提供を伴うものであっても、主として懇親のための会であるとはいえず、事務管理部の実質的統括者の次長にとっては、業務に該当する」というものでした。

それに対し、高等裁判所では、もっと細かな区分を試みています。まず、第二部の会合全体については、「稟議や案内状もなく、議事録が作成されることもない。アルコールの量も少なくはなく、元々、第一部の会議の慰労会として開催されていたもので、直ちに業務ということはできない」と述べました。

次に次長本人ですが、「事務管理部を実質的に統括していたこと、会社では会合で社員の意見を聴く場として位置づけていたことなどからすると、会合への参加は業務と認めるのが相当」と述べました。

ただし、第二部の開始(午後5時)から午後7時前後までを業務とみなし、「その後も約3時間、飲食したり、居眠りをし、帰宅行為を開始したのは午後10時15分であるうえ、相当程度酩酎し、部下に支えられてやっと歩いていた状態であった」という事実にかんがみ、「帰宅行為が就業に関してなされたといい難いし、通常の通勤に生じる危険の発現とみることもできない」と断じました。

結論的には、通勤災害でないという国(労働基準監督署長)側の主張を認容しました。

それでも、第二部の会合のどこまでが業務で、どこからただの「飲み会」なのか、その判断は非常に微妙で、今後も一筋縄でいかない問題であるのは確かです。

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