労働協約で操業短縮 (2009年6月号より抜粋)  
     
 

操業短縮の労働協約に反対する従業員は別に同意が必要でしょうか?

 

Q

労働組合と協議のうえ、当面、操業時間を短縮することで合意しました。所定労働時間が短くなった分、時間比例で賃金もカットします。しかし、数人の従業員が強硬に反対しています。組合と合意すれば、個々人の同意は不要と考えてよいのでしょうか。

 

 
 
A

不利益でも労働協約に拘束力あり

労働組合法第16条では、「労働協約に違反する労働契約は無効とし、労働協約の定めるところによる」と規定しています。ですから、一般論としては、労働協約の締結により、労働契約に基づく労働条件を変えることが可能です。しかし、実務的には、労働組合と合意し、協定を結べば、それですべて問題解決とはいきません。検討すべき問題が、2種類あります。

第1は、労組法第2条で、「労働組合は、労働条件の維持改善その他を主たる目的として組織する団体である」とうたってある点です。労働組合が協約を結んでも、それが労働者にとって不利な内容のときは、組合活動の趣旨に反するので、効力を肯定できないとする説も主張されています(「協約自治の隈界」ともいわれます)。

裁判でも色々な見解が示されていますが、最高裁による代表的判例(朝日火災海上保険事件、平9・3・27判決)では、「特定の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結するなど労働組合の目的を逸脱」したものでなければ、「労働協約に定める基準が労働条件を不利益に変更するものであることの一事をもってその規範的効力を否定することはできない」と述べています。

学説でも、「労働組合としては、組合員の利益を全体的長期的に擁護しようとして、それ自体では不利益にみえる協定を締結する」ことは、不合理ではないという有力見解もあります(菅野和夫「労働法」)。

お尋ねのケースでも、労働組合は「短期的に収入が減っても、操業短縮に同意することで会社が存続すれば、長期的には組合員の利益が守られる」と判断して、協約締結に合意したのでしょう。ですから、「賃金カットに同意する労働協約は直ちに無効」という主張は説得力を持ちません。

しかし、第2の問題として、協約締結の手続きに不備な点があれば、協約の効力は否定されます。

経営者と組合役員がトップ会談し、操業短縮に合意しても、それは組合員の総意を反映したものとは認められません。特に従業員全体に著しい不利益を及ぼすような内容の場合、集団的な意思集約の手続(組合大会での特別決議、組合員投票など)を経るのが適切だといわれています。

会社側としては、交渉相手の労働組合が管理職を除く絶対多数の労働者を組織している場合、組合幹部と協議さえすれば、すべての労働条件を決定できると考えがちです。しかし、組合員の授権のない協約は無効です。ですから、協約締結に至るまで、組合側がどのようなプロセスを経たのか再確認する必要があります。

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