判例 パートに正社員並み賃金払う義務なし (2009年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

役割・責任範囲に差異 

平成20年施行の改正パート労働法では、「正社員と同視すべきパートの差別的取扱い禁止」を定めました。会社側は戦々恐々ですが、本事件では「一定の責任をもって企画業務」に携わっていたパートが、格差は不当と訴え出たものです。しかし、職務ローテーションがなく、世間水準との比較も困難という理由で、差額賃金の請求は認められませんでした。

京都地方裁判所(平20・7・9判決)


パート労働法では、@職務(仕事の内容および責任)、A人材活用の仕組み(人事異動の有無および転勤)、B契約期間のすべてが正社員と同じパートを、「通常の労働者と同視すべき短時問労働者」と呼んでいます。この場合、賃金(賞与、退職金含む)、教育訓練、福利厚生のいずれについても差別的取扱いが禁止されます(第8条)。

仮に「同視すべきパート」と認定されると、事業主は非常に厳しい立場に立たされます。本事件は、改正パート労働法の施行前のものですが、パート労働法にも触れつつ、一般的な考え方を示した点が注目されます。

判決文では、「パート労働法第8条に反していることないし同一価値労働であることが明らかに認められるのに、当該労働に対する賃金が相応の基準に達していないことが明らかであり、差額を具体的に認定し得る」場合には、不法行為を構成する余地があると述べました。

このように定式化すると、パート側の主張も万全でないことか分かります。裁判の原告(嘱託社員)は、相談業務のエキスパート(週35時間勤務)として就職し、講演の企画、外部連絡会議への出席等の質の高い業務に従事していました。高いモチベーションを持って業務に臨むなか、一般職員との処遇格差に不満を募らせ、法的に争うに至りました。

しかし、裁判所は「質の高い業務」であることは肯定しつつ、苦情対応の責任を負わないこと、職務ローテーションの対象となっていないこと等を理由に、「通常の労働者と同視すべき短時問労働者」に該当するとは認め難いと判断しました。

また、「相談業務を実施している他法人の給与水準、なかでも原告のように質の高い労務を提供した場合にどのような処遇が通常なされているか」等の具体例が乏しく、格差の差額認定は難しいと指摘しています。

結論的には、嘱託社員の不当処遇という訴えは退けられました。職務内容が同一でも、人材活用の仕組み・契約期間が異なれば、「正社員との均衡を考慮しつつ、賃金を決定する」努力義務を負うにとどまります(パート労働法第9条)。仮に「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」と認められても、正社員の間でも賃金水準には大きな開きがありますから、どれだけの差額を補償する義務があると判定するのか、実務釣には難しい問題が残されます。パート処遇をめぐるトラブル解決の難しさを、改めて痛感させられる事件でした。

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