判例 休業に10割の賃金支払いを命じる (2010年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

6割の保障では不十分 回避する努力を怠った

本事件は、会社が期間契約社員をターゲットとして3ヵ月以上の連続休業を命じたケースです。業績不良で雇用調整(休業)を実施した場合、ろづおう基準法上は、6割りの休業手当支払で足りるはずです。しかし、「正当性」がない場合、10割の賃金支払い義務が生し、裁判所は「使用者が正当性の立証責任を負う」という判断を示しました。

I自動車事件 宇都宮地方裁判所栃木支部 (平21.3.25判決)


リーマン・ショック、円高と続き、企業活動は低迷を続けています。雇用調整助成金等を使って、休業手当の原資を工面している会社も少なくありません。

そういった状況下、本事件はちょっとショッキングな判決内容です。端的にいうと、「休業を命じた場合、労基法に基づく6割保障では足りず、10割の賃金支払いが必要になるケースもあり得る」というものです。

ただし、応分の理由も存在するので、背景も含めて、事件の全体像を把握する必要があるでしょう。被告となった自動車工場では、受注の急激な落ち込みに伴い、大幅な雇用調整に着手しました。会社業績としてはまだ「黒字」確保が見込まれる状況だったのですが、「先手を打って」約500人の期間労働者全員に解雇を通告しました。

しかし、裁判所は労働契約法第17条(期間契約の途中解除)に違反し、解雇無効と判断しました。このため、会社は「契約期問満了日まで6割の休業手当を支払う」という方針に切り替えました。

これに対し、労働者側はさらに民法第536条第2項に基づき、残り4割の賃金仮払いを求めました。同項では、「債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって債務(労務の受領)ができなくなったときは、債務者(労働者)は反対給付(100%の賃金)を受ける権利を失わない」と規定しています。

主な争点は、2つあります。第1は、「責めに帰すべき事由がある(ない)」という事実の立証責任は、誰が負うかです。

裁判所は、「労働者が「労務の受領を拒否された」と立証主張すれば、使用者側において、抗弁として、受領拒絶には正当な事由があることを主張立証しなければならない」と断じました。

第2は、拒否に正当な事由があるか否かです。決定文は、「本件のように包括的かつ一律に、契約期間の満了までの数カ月という長期間にわたる休業によって、一方的に期間労働者に不利益を課する命令の合理性は、正社員に対する場合と比べ、より高度なものを要する」と述べました。結論的には、100%の賃金支払が命じられました。

本件は、地裁支部の決定段階のものです。上級審が、この判断を支持するとは限りません。しかし、少なくとも、会社としては、「残りの期間」について、就労が可能かどうか適切に判断し、飛び飛びにでも稼働日を設定し、できる限り休業日を減らす努力をするべきだったでしょう。誠意の不足が、敗訴につながったといえそうです。

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