判例 同一労働同一賃金に該当せず (2011年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

再雇用者の賃金引下げは45%ダウンも許容範囲

定年に達した従業員を再雇用する際、賃金を大幅にダウンさせ廿るのは「常識」です。しかし、高齢者側からみれば、「同じような仕事を続けているのに、なぜ」という疑問が生じます。本事件は、再雇用者が「同一労働同一賃金」の原則に基づき、賃下げの不当性を訴えたものです。裁判所は、公序良俗違反は認められないと結論付けました。

Y運輸事件 大阪高等裁判所(平22・9・14判決)


60歳以上の高齢者を継続雇用する場合、「定年の延長」より「再雇用」を選択する会社が圧倒的多数です。再雇用とすると、一般に「賃金の大幅な引き下げが可能」といわれるからです。

しかし、どの程度の調整が可能なのでしょうか。本事件では、正社員当時と比べ、賃金は54.6%の水準にダウンしていました。従業員は、「同一労働同一賃金」の原則」に基づき、正社員当時と同額の賃金を請求しました。

正社員とパートの間で、賃金格差が争われた裁判例は少なくありません。正社員と高齢者(嘱託再雇用者)の賃金格差も、基本的には同一の枠組みで考えるべきでしょう。

しかし、正社員として採用された人間とパート採用された人間は、同一ではありません。一方、高齢者の場合、昨日まで正社員だった人間が、今日から嘱託社員に切り替わるという形になります。同じ人間が同じ価値の労働を提供しているのに、「なぜこんなに賃金に差があるのか」と疑問に感じるのは人情として当然です。

裁判所は、「同一人間同一労働」という感情論には、タッチしませんでした。「同一労働同一賃金」の原則については「同種の労働契約に基づき同一賃金体系によっている社員間でのみ問題になる事柄であり」「正社員と嘱託社員間では、本来的に、同一労働同一賃金の原則の適用は予定されない」と述べました。

そのうえで、「賃金の格差が、看過しがたいものとして公序良俗違反といえる」程度に至っているか否か、判断を下しています。

裁判所が着目したのは、雇用保険の高年齢雇用継続給付です。「継続給付は、60歳以降の賃金が60歳到達時の賃金月額の75%以下となることを許容し、61%となることまでも具体的に細かく予測したうえで支給金の割合を決定している」と述べ、高鶴者の賃金引き下げは制度上織り込み済みであると断じました。実際、原告側の従業員は、雇用継続給付の支給を受けていました。

さらに、「わが国労働市場の現況や、定年退職後の雇用状況」を考慮すると、「54.6%という数字が公序に違反するとまで認あることは困難である」と結論づけています。判決文は、世間で広く採用されている高齢者再雇用の「現実」を、そのまま追認した形です。

ただし、高齢者賃金の相場は、時の経過とともに変化していくので、未来永劫、このままでよいとお墨付きが出たわけでない点には、留意すべきでしょう。

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