判例 前科消えず懲戒解雇は有効 (2011年12月号より抜粋)  
   

 

 
 

服役後10年で効力消滅 経歴詐称の主張を認める

本当は刑務所で服役していたのに、「海外で経営コンサルタントをしていた」と偽って就職した従業員が、経歴詐称で解雇されました。しかし、当人は「服役を済ませた以上、罪は消滅したはす」などと主張し、解雇処分に異を唱えます。さて、「前科」の申告義務をめぐって、裁判所はとのような判断を下したのでしょうか。

M社事件 東京地方裁判所(平22・11・10判決)


「経歴詐称」は、懲戒事由の代表例の1つといえます。学歴・職歴・犯罪歴等の詐称が、一般的です。

しかし、最近では個人情報保護法の影響で、「病歴」に関する質問が難しくなり、そのほか「個人にとって都合の悪いこと」全般についても、根掘り葉掘り聞き出しにくい雰囲気が醸成されています。

本事件で、懲戒解雇された従業員は、雇用契約を締結する4ヵ月前まで、名誉棄損罪で2年6ヵ月服役していました。しかし、略歴書では、その間、「アメリカで経営コンサルタントをしていた」と記載し、提出していました。

会社側は、得難い経歴の持ち主と判断して採用を決定しました。ところが、社長のみるところ、経歴と言動に不釣り合いな点が少なくありません。調査したところ、服役の事実が発覚し、本人もそれを認めました。

社会常識からいえば、深く恥じ入って、自分から退職を申し出るところでしょう。しかし、本人は退職勧奨にも応じず、懲戒解雇されると裁判所に訴えを起こしました。さすがは、「自称コンサルタント」で、なかなか弁が立ちます。

裁判の場では、「@実刑判決を受けて服役した者も取締役に就任した例がある」、「A刑を満期で終えており、既に刑の消滅した前科に当たるから、前科を告知すべき信義則上の義務はない」などと主張しました。

確かに、採用者側があまりに犯罪歴にこだわると、前科者の社会復帰の妨げになります。一度、罪を犯せば、本人が悔い改めても、未来永劫・正常な社会復帰が許されないというのは、あまりに酷です。

裁判所は、@「実刑と取締役就任」の主張については、「本件とは事案を異にする」と門前払いにしました。A「刑の満了と告知義務」については、刑法第34条の2によって刑の言い渡しは効力を失っていないと指摘しました。

刑法第34条の2では、「禁固以上の刑を終わり又執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したときは、刑の言い渡しは効力を失う」と定めています。

裁判所は、仮に前科が申告されていれば、雇用契約締結に至らなかったと推測されることから、解雇は有効と結論付けました。

前科については、起訴猶予や罪の消滅した事案については、告知義務がないとされています。実務的には、経歴詐称の対象となる「前科」とそうでないものを、はっきり区別する必要があります。

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