判例 連続深夜業務の違法性を否定 (2012年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

危険回避義務は尽くした うつ病と因果関係認めず

「日が昇るとともに田を耕しに行き、日が沈むと同時に家路に付く」、これが昔ながらの労働の姿です。本事案は、これに反する不規則な「深夜勤務」を強いられ、うつ病に罹患したと従業員が訴えた事案です。1審(地裁)では一部安全配慮義務違反が認められましたが、2審(高裁)では従業員側全面敗訴となりました。

N事業事件 東京高等裁判所(平23・1・20判決)


生活スタイルの多様化により、サービス産業では24時間の営業体制が増えています。都会では、「草木も眠る丑三つ時」などということばは、とっくに死語になっています。休日や深夜に働く人が増加すると、それに合わせ小売・飲食店・運輸交通業の需要も増加するという悪循環に陥っています。

妻や子供は、平日の昼間を中心に活動しています。夫の就労時間帯が休日・夜間に設定されると、家族が共に過ごす時間が極端に少なくなってしまいます。

本事案では、企業体がそういう「自然に反する」時間帯の勤務を強制できるか否か、という根源的な問題が争われました。原告従業員は、深夜勤務によりうつ病に罹患したとして、安全配慮義務違反および人格権の侵害があったとして、損害賠償を請求しました。

第1審(東京地判平21・5・18)では、深夜業の過重性は認めなかったものの、「不規則な深夜帯の交替勤務については、うつ病等の精神障害の発症率が高いことが指摘されていることから、安全配慮義務違反があった」として、50〜80万円の慰謝料の支払いを命じました。原告・被告ともに判示内容を不満とし、高裁に控訴しました。

第2審では、業務の過重性について、深夜の勤務時間が4週間当たり24〜36時間程度、10時間拘束勤務が4週間当たり最高8回等の実態を踏まえ、「わが国の民間企業等における深夜業に関する一般的状況に照らし、著しく過重なものとはいえない」と判断しました。

第1審裁判所が指摘した「不規則勤務」という点についても、「指定は何通りかのパターンに集約されるもので、全く規則性がないとまではいえないし、勤務間には一定時間が確保され、疲労回復に配慮されている」と述べ、違法という主張を斥けました。

安全配慮義務については、うつ病との事実的因果関係が立証できないとしたうえで、「特定業務従事者(深夜業)の健康診断のほか、自発的健康診断の経費負担、成人病検診の自己負担分の助成をし、その結果に基づき深夜勤務の制限等の措置を行ってきた」ので、事業主として回避義務を尽くしていると認めました。

結果として、従業員側の全面的な敗訴となりましたが、24時間休みなしという経済活動の現状を考えれば、深夜業の禁止が不可能なのは自明の事実です。

しかし、本件のような裁判が現に争われている点も踏まえ、従業員の希望に反する勤務を強制する際には、適切な時間設定・細心な健康管理に努める必要があるのは、いうまでもありません。

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