判例 固定月給制と残業代 (2013年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

法定労働時間を超える残業は割増が必要

管理監督者等でない限り・基本的に「残業の有無に関係なく、基本給だけ支払う」という契約は認められません。本事件は、「月間の労働時間が160時間プラスマイナス20時間の範囲内にあるときは、賃金清算しない」と定めた異色のケースです。最高裁は、高裁の判断を覆し、法定時間外部分については割増賃金の支払が必要と判示しました。

T社事件 最高裁判所(平24・3・8判決)


月給制を採る会社では、月の所定労働日数が17日でも、22日でも同額の賃金を支払います。

労働基準法上、「所定労働時間(所定労働日数)に応じて、賃金額を定めなければならない」等の根拠規定は存在しないからです。

月の所定労働日数が変動するのは、国民の祝日や会社所定の休日も含め、カレンダーの影響によるものです。

しかし、カレンダーに基づく労働時間の変動を考慮しなくてよいのなら、「業務の繁閑に基づく労働時間の変動に関係なく、一定の基本給を支払う」という仕組みも許されるのではないか、という発想が生まれます。これを「究極の固定月給制」とよびましょう。

本事例は、月160時間勤務をベース(基本給41万円)とし、「1ヵ月の労働時間が180時間を超えた場合は1時間当たり2,560円を支払うが、140時間に満たない場合は1時間当たり2,920円を控除する」という特異なルールを定めたものです。

上下限はあるものの、「業務上の繁閑に関係なく、賃金支払額を固定したい」という基本思想は、前述の「究極の固定月給制」と相通じるものがあります。仮に本件(上下限付の固定月給制)が合法と認められるなら、「究極の固定月給制」の実現に向けて、大きな一歩が踏み出されることになります。高裁では、「本人が180時間以内の時間外手当請求権を自由意思で放棄した」と認定し、有効という判断を示しました。

しかし、最高裁は、別のアプローチを取り、逆の結論を導き出しました。本件の定めは、上限を設けている点に着目すると、いわゆる「時間外の定額払制」によく似た面があります。

時間外の定額払制に関しては、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分を明確に分け、実際の時間外労働に基づく割増賃金が定額払分を超えるときは追加で清算する旨定める」限りにおいては、合法という考え方が確立しています。

最高裁はこの考え方に準拠し、本件の賃金支払規定は@通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できず、Aかつ1ヵ月の労働時間が相当に変動し、あらかじめ予測不可能であるため、有効とは認められないと判示しました。

「労働時間に関係なく一定の基本給を支払う」こと自体は可能であっても、「法定時間外労働が発生したときは、(定額制の定めによる場合も含め)労基法に基づきキチンと割増賃金を清算しなければならない」という基本原則に反することは不可能ということです。

▲画面トップ


  労務相談と判例> 労働時間の相談

Copyright (C) 2013 Tokyo Soken. All Rights Reserved 

東京労務管理総合研究所