判例 うつを主張する勤務不良の社員を解雇 (2013年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

症状軽度で配慮要さず 指導しても改善ない

勤務不良で指導しようとしても、「最近、うつ気味なので」などと言い逃れする従業員もいます。精神不調を理由にされると、会社側もなかなか厳しい対応を取りにくいものですが、大目にみるといっても限度があります。本事件で、会社側はやむを得ない措置として解雇を選択しました。裁判所も、うつ症状は軽度であるとして、処分の合理性を認めました。

N社事件 東京地方裁判所(平24・7・18判決)


最近、新型うつ病ということばが広く知られるようになりました。「うつで休職することにあまり抵抗がない」「自責感に乏しく、会社や上司のせいにしがち」などといった点が特徴です。

単なるパーソナリティの問題と考えられがちですが、いわゆる「仮病」とは異なります。対応を誤れば、会社としても安全配慮義務違反を問われかねません。

しかし、そうはいっても、従業員の自己申告を鵜呑みにして、「腫れ物に触る」ような対応に終始するのも得策ではありません。

本件の主人公Aさんは、元々、営業社員だったのですが、会社合併等により、社内ウェブ・メンテナンス業務に配転となりました。

B社(外資系)では、パフォーマンス・プラン・レビュー(PPR)という目標管理制度を運用し、人事評価は3ランク制で、最低評価者に対しては改善プログラム(1マネジメント)を実施する仕組みを採っていました。

新しい職場に移った後のAさんの評価は、さんざんなものでした。「単純な作業はできるが高度な戦略的思考は説明に大きな時間を要する、与えられた職務および職務以外の環境に不満が多い、自分の意見に固執する」などの点が指摘され、6年間で5回、最低評価ランクを受けていました。

一方で、うつ症状を上司に訴え、会社の健康相談室に相談に行くといった行動を採っていました。しかし、治療担当医師、産業医の診断によると、労務軽減等の配慮が必要な程度のうつ症状であったとは認められませんでした。

B社は、PPR制度や1マネジメント制度に基づき指導し、教育等も行ってきましたが、最終的に、「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがない」と判断し、解雇を申し渡しました。これに対し、Aさんは、「精神的不調に対する対応が不適切であった」などの理由を挙げ、解雇は社会的相当性を欠くと主張しました。

裁判所は、「Aさんの訴えを受け、産業医の受診を勧める等の対応を行うことも考えられたが、そもそも、うつ症状についてB社に何らかの義務を負わせる程度に重かったということは困難であり、B社が具体的な行動に出なかったことが、直ちに何らかの義務違反を構成するものではない」と述べ、Aさんの訴えを退けました。

結果は会社側勝訴ですが、「具体的な行動」を採っていれば、リスクはさらに小さくなります。「みた目上は問題ない」従業員に対しても、再三にわたり診断書提出・医師受診等(産業医であることが望ましい)を求めておくのが、「転ばぬ先の杖」というものでしょう。

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