判例 派遣元は解雇回避義務を負う (2014年12月号より抜粋)  
   

 

 
 

派遣先でセクハラ事件 契約途中解除 

派遣先が「理不尽な理由」で途中契約解除を通告しても、派遣元が撤回を求めるのは容易ではありません。本事件では、派遣先社員がセクハラ事案を起こし、被害者である派遣社員が中途で仕事を辞めさるを得なくなりました。裁判所は、「派遣社員の退職を回避する義務を怠った」として派遣元の不法行為責任を認定しました。

Tエンタープライズ社事件 大阪高等裁判所(平25・10・20判決)


派遣先と派遣元では、力関係に大きな差があります。実務の現場では、「無理が通れば、道理が引っ込む」で、一方的な要求を突き付けられた派遣元が涙を飲んで受け入れざるを得ないケースが多発しています。

このため、「ドタキャン(突然の契約解除)」に関しては、平成24年の派遣法改正により、「派遣労働者の新たな就業の機会の確保、休業手当等の支払に関する費用負担」等の義務が明文化されました(第26条第1項第8号)。

本事件は、派遣先A社の従業員Bが派遣社員Cに対し、セクハラ行為を行ったのが発端です。Cさんの訴えを受け、A社はいろいろな対応策を講じましたが、最終的に、Cさんを対象とする派遣契約を途中解除するという決定が下されました。派遣元D社は、「一度は抗議しましたが、結果として中途解除もやむを得ない」という判断を下しました。

本事件で特徴的なのは、派遣先A社も派遣元D社も、1つの企業グループに属し、グループ会社で構成する人権推進委員会にも加入していた点です。

だからこそ、A社も中途解除に至る前に対応策(セクハラ社員を一度は社外に出すなど)に頭をひねり、D社も正面切って抗議が可能だったわけです。普通なら、とてもそこまで至りません。

さらに、Cさんが他の派遣先に就労した後、A社がD社を介して、給料の目減り分を填補する等の措置も講じられました。

1審では、派遣元D社は責任を尽くしたと判断し、不法行為責任を否定しました。しかし、本判決(2審)では、次のように述べ、D社の責任を認定しています。「D社は、Cの派遣元事業主として、セクハラ被害を受けた派遣労働者が、解雇されたり退職を余儀なくされたりすることのないよう配慮すべき義務を負う。派遣元は派遣先から中途解除の通知を受ける一方、Cさんからセクハラ事件がその原因であることを告げられたのであるから、直ちに抗議して撤回を求めるべきであった」

そのうえで、「一度抗議しただけで、やむを得ないこととして容認し、それ以上の対応を取ろうとしなかった」のは、事業主としての義務違反であるという厳しい判断を下しました。

本判決では、派遣元が中途解除による損失を補てんするだけでは不十分で、派遣先に対して中途解除の撤回そのものを要求すべきとしています。業界の現状から「かい離」した結論という印象も受けますが、派遣業者としては無視できない判例といえます。

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