判例 固定残業代の名に値しない (2015年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

成績対応で減額を規定 割増賃金と付加金の支払いを命じる 

「固定残業代」は、しばしば割増賃金の不払いをめぐるトラブルに発展します。違反事例をみると、「付け焼刃」の知識で安易に同制度を導入する企業が後を絶ちません。本事件では、「時間外相当」といいながら「営業成績に応じて手当を減給」する規定となっていました。裁判所は、付加金も含めて割増賃金の支払を命じています。

D社事件 東京地方裁判所(平26・4・4判決)


「固定残業代」制度は、労働時間と成果が必ずしも比例しない職種で多用されます。代表例が、営業社員です。

外勤の営業社員に対して、「営業手当」を加算する代わりに「時間外割増」は支払わないという会社もあります。しかし、労働基準法に則してキチンと制度設計してあれば、そうした仕組みでも違法性はありません。

営業手当は、支給目的により2種類に分類されます(日本経団連出版「人事労務用語辞典」)。第1は、営業外勤という職務の労苦・負担に対して支給する職務手当という性格を有するもの。第2は、営業外勤に対する時間外勤務手当として支給するものです。

以前は、手当の性格を明確に定めないまま、単純に「営業手当を払えば、時間外割増なしで構わない」と考える経営者も少なくありませんでした。しかし、サービス残業規制が強まるなか、賃金にあらかじめ残業代相当分を含む場合、「割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する部分を区別」して規定する必要がある(平12・3・8基収78号)点については、指導の徹底が図られてきました。

本事件は、不動産の仲介会社A社が舞台です。訴えを起こしたBさんは、テレホンアポイント業務に従事するアルバイトの指導等を担当していました。

賃金規定には、「営業手当は時間外割増賃金で月30時間相当として支給する」点が明記されていました。A社は、「割増賃金相当部分を明確化する」必要性は認識していたようです。

しかし、解雇をめぐる紛争に端を発し、Bさんは時間外割増・付加金・遅延利息の支払い等を求める裁判を提起しました。労基法第114条では、「裁判所は、割増賃金の不払い等を起こした使用者に対して、労働者の請求により、同一額の付加金の支払(倍返し)を命じることができる」と規定しています。現実に支払いを命じるか否かは、事案の悪質性に応じてケースバイケースです。

判決文では、「A社には月30時間を超える時間外労働の有無および時間数を把握し、時間外割増を支払う意思もなかった」「営業成績に応じて営業手当の減額もあり得るという性質は、固定残業代とはおよそ相容れない」と述べ、営業手当を時間外手当として支給する合意がA社とBさんの間で成立していたとは認めがたいと判断しました。結論として、割増賃金・付加金等の支払を命じています。

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