判例 賃金データ持ち出しの正当性を否定 (2016年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

在職中から裁判を企図 会社への損害賠償は認めず

本事件は、在職中の従業員が労働時間データを退職者に渡した行為の是非が争われました。未払残業をめぐる裁判では、労働時間の立証がガキになります。裁判所は「正当な行為」という従業員側の主張を退け、就業規則違反と認定しました。しかし、「会社業務に支障を生じた」とする損害賠償請求は認めませんでした。

L社事件 東京地方裁判所(平27・3・27判決)


最近、テレビや映画で「スピンオフ」作品ということばが使われます。スピンオフ(またはスピンアウト)とは、「派生作品」「外伝作」といった意味のようです。本編より、外伝の方が面白いという話もままあります。

本裁判は、未払残業について争った事件のスピンオフです。裁判に提出された労働時間データは、実は別の従業員(Aさん)が事務所から持出したものだったのです(Aさんは、その後、退社)。そこで会社Bは、Aさんに対し、会社機密を漏洩したとして、損害賠償を求める裁判を提起しました。

事実関係を整理します。

Aさんは、在職中に、作業時間の集計シートをダウンロードし、既に退職していたCさんほかに渡しました。Cさんたちは、それを基に会社Bに対して、未払残業代をめぐる訴訟を起こしました。

Aさんの行為は「義侠心に駆られて」のようにもみえますが、Cさんたちと示し合わせて未払い残業代を勝ち取るためという裏の意図も透けて見えます。

裁判の争点として、まず機密保持義務違反に当たるか否かが挙げられます。会社Bの就業規則には、退職後の守秘契約が定められていなかったため、判決文では「労働者の機密保持義務は退職とともに終了するのが原則」と述べました。しかし、そうであっても「雇用期間中に情報を持ちだした場合、漏洩行為は機密保持義務の適用を受ける」という判断を示しています。

次の争点は、違法性阻却事由の有無です。Aさんは、「Cさんに対しては、データの利用目的を未払残業代の請求資料として用いることに限定していた」から、正当性のある行為だと主張しました。これに対し、判決文では、「Aさんは、退職前にCさんらを誘って請求訴訟を提起することを企図し、その際の証拠とすべくデータの持出行為を行ったもので、正当行為との主張は理由がない」と断じています。

ここまでは、会社サイドの言い分が通った形です。しかし、裁判所は損害賠償に関する請求は退けています。会社Bは「漏洩行為の影響で、本来業務に従事できず、利益を喪失した」と主張しましたが、判決文では「不払い残業訴訟に応訴したことに伴って当然かつ本来的に対応すべき範囲を超えた何らかの対応がされたと認める証拠がない」と却下しています。

会社としては「勝負に勝って試合に負けた」形です。

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