判例 出向社員の不正と損害賠償責任 (2016年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

出向元の人材人選に問題あり 出向先は監督不十分

外部から受け入れた入材が不正行為を行った場合、誰が責任を負うのでしょうか。本事件は経理担当者の横領をめぐるもので、出向先は、「損害発生時の補償条項」に基づき出向元にも賠償を求めました。裁判所は、出向元に関しては人選面での責任、出向先については監査上の不備を指摘し、両者が損害を折半負担すべきと判示しました。

N鉄道事件 名古屋高等裁判所(平26・2・13判決)


人件費圧縮・経営の合理化のため、人材のアウトソーシング化が進行しています。企業間の提携形態が多様化するのに伴い、人材交流も活発化しています。

自社で雇用する従業員が会社に損害を与えた場合、会社と従業員の二者間で問題の解決が図られます。しかし、外部人材の場合、その人材を送り出した会社も当事者に加わり、問題が複雑化します。

このため、出向契約や労働者派遣契約等を締結する際、損害賠償に関する条項を設けるのが一般的です。しかし、現実にどこまで賠償請求が可能なのか、実務的には明確でないところがあります。

本事件で、A社はB社から出向者を受け入れ、出納を含む経理業務を担当させていました。

ところが、この経理担当責任者が馬券購入のため会社預金を横領するという事件が発生しました。A・B両者間で締結した出向契約には、「出向元であるB社は、出向者が法令またはA社の規則等に違反したことによりA社に損害を与えた場合、その損害を賠償する。ただし、その責任がA社の責めに帰すべき事由によるときはこの限りでない」という補償条項が付されていました。これは、アウトソーシング契約を結ぶ会社間で広く用いられている「定型フォーム」といってよいでしょう。

裁判所は、「ただし書き」の部分について「本事件の損害は出向者の横領により生じたもので」あるため、「A社の責に帰すべき事由」に該当しないと述べました。

それでは、すべてB社の責任(出向者との連帯責任)になるのでしょうか。この点について、「補償条項は被用者の行為により使用者の受けた損害を賠償することを約する身元保障に当たり、身元保証法が適用される」と述べたうえで、身元保証法第5条に基づいて両者の責任を判断しています。同上では、「従業員の監督に関する使用者の過失の有無等の事情をしんしゃく」すると規定しています。

「法令違反等により出向先に損害を負わせることのない者を出向させることは、B社(出向元)の最低限の義務」です。

しかし、A社では、多額の横領が発覚するまで、総務部長・監査役・会計監査人等のチェック機能が働いていませんでした。

結論として、裁判所は、出向先・元がそれぞれ5割の割合で責任を負うと判示しました。

補償条項を盛り込んでいても、不正が起きた後、「すべて出向元の責任」という言い分は通らないようです。自社の従業員と同様に、日頃から、厳しく管理・監督を行う必要があります。

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