判例 主治医診断書の信頼性を否定 (2016年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

私傷病で退職扱い有効 復職可能な状態にない

私傷病者の退職手続きは、しばしば難航します。本入が「就労可能」という診断書を提出してくれば、会社も一目置かざるを得ませんが、客観的には就労が困難なケースも往々にしてあります。本事件で、裁判所は「本人の強い復職意向を踏まえて書かれたもの」として診断書の信頼性を否定し、退職扱いは正当と判示しました。

C社事件 横浜地方裁判所(平27・1・14決定)


多くの会社の就業規則では、私傷病休職について「期間満了後に退職(または解雇)する」と定めています。ケガや内臓疾患等(身体上の傷病)であれば、就労できるかどうかは、一目瞭然です。

しかし、メンタルヘルス関係の病気の場合、外見からは判断が難しいケースが多々あります。

本事件は、「適応障害」にまつわるものです。適応障害とは、「生活の変化や出来事がその人にとって重大で、普段の生活がおくれないほど抑うつ気分、不安や心配が強く、それが明らかに正常の範囲を逸脱している状態」と説明されています(厚労省HP)。

ストレス因から離れると症状は回復しますが、根本的な治療は難しい病気のようです。つまり、職場のストレスに起因すると、なかなか復職は難しいということです。

Aさんは適応障害の疑いで自宅療養を続けていました。B社の就業規則では、3か月の傷病欠勤、12ヵ月の傷病休職後、復職できないときは退職とすると定められていました。

Aさんは期間満了1ヵ月前に、「さらに自宅療養が必要」という診断書を提出しました。B社は、療養予定期間が満了期間をオーバーするので、就業規則どおり、退職扱いする旨通知しました。

これに対しAさんは、一転して、「症状軽快、通常勤務問題なし」という診断書を提示し、復職を求めました。当然、会社はこれを信用せず、退職扱いとしたため、裁判に発展しました。

裁判所は、B社代理人の聞き取りに対し、主治医が「Aさんがクビを宣告された後、『会社に戻りたい』といってきたので、希望どおり診断書を書いた。解雇となった場合、症状がもっと悪くなると思った」などと述べていることから、休職期間満了時に復職可能であったとは判断できないと結論づけました。

話としては、非常に単純です。しかし、本事件にあるとおり、主治医が本人に良かれと思って診断書の記載内容にサジ加減を加えるのは、むしろ当たり前のことです。それでも専門家の意見にはそれなりの重みがあり、会社の一方的な決め付けで退職手続きを強行するとトラブルになりかねません。

本人が診断書を盾に復職を迫ってくるときは、会社側も専門家の見解を根拠に対応する必要があります。

本事件は、会社側が診断書の信頼性を否定し、勝利を勝ち取った例として、実務担当者を勇気付けるものです。

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