判例 再雇用時の賃金低下に合理性あり (2017年1月号より抜粋)  
   

 

 
 

有期ゆえの差別ではない 使用者側が逆転勝訴

判決がいい渡された当時、大いに社会的反響を呼んだ判決の第2審です。労働契約法では、有期・無期の労働者間で不合理な格差を設けることを禁じています。定年・再雇用時に賃金が下がったドライバーが、「有期であるがゆえの差別」と提訴しました。裁判所は、「再雇用時の賃金引下けは通例」であり、不合理な格差でないと判示しました。

N運輸事件 東京高等裁判所(平28・11・2判決)


改正労働契約法の施行は、平成25年4月1日です。その当時から、この手の紛争が生じることは予想されていました。

労契法第20条では、「有期労働者と無期労働者(正社員等)の労働条件に相違がある場合、その相違が不合理なものであってはならない」と規定しています。

違反と判断されるのは、次の条件を満たすときです。

  1. 相違が「有期であること」を理由とする

  2. 「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮しても不合理である

定年に達した正社員は、嘱託再雇用後に賃金が下がるのが普通です。同一の人間が、同じ組織の中で、無期・有期の両方の形で働くことになります。この場合も、労契法第20条の適用があります。

改正法施行時の解釈例規(平24・8・10基発810002号)では、「定年後に有期で継続雇用された労働者の労働条件が定年前と相違することについては、定年の前後で職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されるのが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められない」と述べていました。

しかし、中小企業等では、再雇用時に「それほど仕事の内容は変わらないのに、賃金は大幅に下がる」という例も多々あります。そうしたケースで裁判所がどんな判断を下すのか、労務管理の世界では大きな関心事となっていました。

前置きが長くなりましたが、本事件は、運輸会社のドライバーが「嘱託再雇用後に3割の賃金引き下げがあった」点を不満として、提訴したものです。

本事件では、職種の特殊性があります。通常の事務職であれば、形の上だけでも「職務内容や配置転換の可能性に差をつける」のが定石ですが、ドライバーでは、そうした相違がほとんどありません。第一審では、労契法第20条等を厳格に適用し、「本件相違は不合理なものである」と判示しました。

しかし、第2審では、「職務内容」「その変更の可能性」に大差がなくても、「その他の事情」を考慮する必要があると指摘しました。そして「定年再雇用時に賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実」と述べたうえで、「定年後の再雇用制度はそれまでの雇用関係を消滅させ、退職金を支給したうえで、新規契約を締結することを考慮すると、それ自体不合理といえない」と断じました。

使用者側の逆転勝訴ですが、労働者側は上告する方針で、最終決着はまだ先の話です。

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