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年休の時効消滅処理の順番 (2017年12月号より抜粋)

年休は「今年発生した分」から先に消化させるというルールも可能?

 

Q 経営者の集まりで、社長が「年休は、新規発生分から消化させることができる」という話を聞き込んできました。確かにその方が、会社にとって有利です。社長は「来年から新ルールを適用する」と意気込んでいますが、本当にそんなことが可能なのでしょうか。

 

A 合意があれば変更可能だが容易ではない

 

年休は毎年権利が発生しますが、1年で使いきれない従業員がほとんどです。

 

労働基準法では、「賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権」について、2年の時効を定めています(労基法第115条)。ちなみに、退職手当の時効は5年です。

 

年休は、「その他の請求権」に属すると解されています(昭22・12・15基発501号)。つまり、時効は2年です。

 

去年、使い切れなかった年休が10日あり、今年20日の年休が発生した従業員がいたとします。今年、この人が10日の年休を消化したら、翌年度に繰り越される年休は何日でしょう。

 

ここで、「年休は、繰越し分と新規発生分のどちらを先に消化するのか」という問題が発生します。

 

繰越し分から使うとすれば、先ほどの従業員は、去年分10日を消化し、今年発生した20日が丸々繰り越される計算になります。

 

新規発生分から使うとすれば、今年発生分の20日のうち、10日が来年に繰り越されます。去年分の10日は2年の時効にかかり、来年になると権利がすべて消滅してしまいます。

 

どちらの解釈を採るかで、天地の違いが出ます。この点に関しては、「翌年度に休暇を付与するときに与えられる休暇が前年度のものであるか、当年度のものであるかは当事者の合意によるが、(合意がないときは)労働者の時期指定権行使は繰越し分からなされていると推定すべき」と解説されています(労基法コンメンタール)。

 

ですから、大多数の会社では、繰越し分から処理されています。しかし、社長さんが聞き込んできたとおり、「合意」により、ルールを変えることもできるという解釈になります。

 

しかし、従業員にとっては、不利益変更ですから、「合意の取付けは容易でない」という覚悟は必要でしょう。

 

年休の消化率アップは、ワークライフバランスの課題の一つでもあり、会社として消極的な姿勢を示すのは、あまり得策でないという見方もできます。

 

会社が一方的にルールを変更し、仮に裁判になったとします。労使が争っている間に、時間はどんどん経過していきますが、その間に年休の権利は時効で消滅していくのでしょうか。

 

民法では、「時効の中断」に関する規定を置いています(第147条)。時効の中断事由としては、①請求、②差押え、仮差押えまたは仮処分、③承認が挙げられています。

 

裁判の提起は、①請求に該当します。裁判で中断した時効は、「裁判が確定したときから、新たにその進行を始める」と定められています(民法第157条2項)。