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2008年の記事

 

 

 

 

 

美希刺繍工芸

 

世界から一目置かれるオリジナル刺繍技術

業種:刺繍業
美希刺繍工芸


地方の一中小企業の独自技術が、日本は言うに及ばず世界のアパレルメーカーから一目置かれる存在に−。この爽快極まりない話題提供の主は、オリジナル刺繍を手掛ける美希刺繍工芸(広島県福山市)。刺繍技術はきめ細かな作業の得意な日本人向きだから、こんなこともあり得るのでは、と簡単に考える向きがあるとすれば大きな勘違い。世界のライバルを横目で見ながら、機械を駆使し素材を生かし切った「美」を極限まで追求する姿勢があって初めて実現できる技術なのである。

わが国のアパレルメーカーの多くは海外へ生産移管し、低価格競争の渦の中で呻吟している。メーカーに刺繍と素材を提供する刺繍業も同じ。こんな状況下では「特徴のない刺繍では、消費者に飽きられて商売にならない」(苗代次郎社長)のも当然だろう。いかにしてライバルと差別化を図り消費者に受け入れられるものを作るか、がアパレル業界の一番大きな課題と言っていい。

苗代社長は新しい刺繍技術と新素材の開発に、若いころ勤務した作業服の縫製メーカーでの経験を土台にした。それはミシン100台を任され修理技術を徹底的に学んだことだ。この時ミシンの構造がいやというほど頭にたたき込まれた。刺繍技術の開発にはまず、刺繍を行う「手」となるミシンの構造を改善、工夫する必要があった。その際、この経験が見事に生きることになった。

2003年のパリコレクションで反響を呼んだデザイナー、鳥居ユキさんのデニム作品は、それまで見たことのない風合いのある刺繍が施されていた。この刺繍入り生地を提供したのが同社だった。採用された新刺繍技術が「WALA(ワラ)カット技法」。ミシンに針の代わりにメスを装着し、生地の縦糸または横糸だけをデザイン通りに高速カットした後に洗い染める。これで糸のほつれ目が繊細なデザインとなって表れる。しかも素材の量産が可能で製品加工もできる。

さらにミシン針を改良したメスと刺繍針を使った「モザイク刺繍技術」も開発。メスを360度回転させながら裁断するのが特徴で、金型では抜けない厚みのある皮革や柔らかい繊維素材にも対応できる。差別化が難しくなっているアパレル業界で、同社の存在は異彩を放つ。苗代社長のミシンに精通した知識と経験が、世の中になかった刺繍技術と斬新なデザインを生んだ。技術で生きるニッポンの底力を見る思いがする。


著作者:e-中小企業庁&ネットワーク
出典:中小企業ネットマガジン


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