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2011年の記事

 

 

 

合名会社山口酒造場

■「老舗酒蔵の合言葉は伝統と革新」

業種:造り酒屋
合名会社山口酒造場

地方の老舗の造り酒屋はその昔、夏に稲作を行い、冬場にそこへ働きに来る農家の人などを中心とした地域のコミュニケーションの場ともなっていた。もちろん神社、仏閣、祭りなどもそうだ。だが農業の担い手が少なくなり酒蔵も不況業種に数えられるようになった昭和40年代ごろから、こうした地域のスタイルがなくなった。そして地方の地盤沈下が叫ばれるようになる。

福岡県久留米市に本社を置く造り酒屋、合名会社山口酒造場の山口哲生代表はこうした背景から、「もう一度元に戻り地域の農業と共に発展していきたい」という。山口家は江戸天保3年(1832年)に6代目当主が酒造業を始め同代表は11代蔵元。約180年続く老舗の酒蔵で、それ以前の味噌、醤油の商いを含めると約300年の歴史を持つ。

昭和44年生まれの同代表は東京の大学を出ると家業とは全く畑の違う貿易商社に就職。その後帰郷し35歳で同社代表に就任して、まず実施したのは大幅かつ杓子定規なコストカットだった。これが裏目に出て各方面から強い反発を受け顧客はおろか、いい仕入れ先まで失った。

「この大失敗の経験で主役は会社でなく地域」ということを心底思い知らされた。これを教訓に発想を転換した。「これからは地域の象徴である筑後川を中心にした商品づくりをしよう」。この川は地域に変わることのない優しさを与えてくれている。そこには荒々しさも、けばけばしさもない。「商品の軸はこれだ」と。

日本酒は「庭のうぐいす」という創業ブランドを採用。地元産のコメ・山田錦と筑後川の伏流水を100%使った自社ブランドを前面に押し出した。ポイントはラベルのうぐいすの色を「緑」と「紫」に分け、前者を辛口でドライな伝統型に、そして後者を甘みと華やかさを持つ革新型にする酒造りを目指したこと。地域密着の味とコンセプトがすっきりした結果、売り上げも増えつつある。

同社のチャレンジはさらに梅酒にも及ぶ。祖父が大分県大山町で植えた梅を使い、造り酒屋だからこそできるという梅酒の味を実現。今年3月に大阪天満宮で開かれた日本一の梅酒を決める「天満天神梅酒大会」で出品された全302銘柄中、1位に選ばれた。また梅実を再利用し、そのスイーツおよび梅原料のリキュールを開発、若者層向け販売にも本腰を入れる。伝統と革新を常にペアで考える、同社の戦略は老舗の酒蔵ならではの重みを持つ。


著作者:e-中小企業庁&ネットワーク
出典:中小企業ネットマガジン


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