衆栄商事(株)
■「被災地で雇用創出に奮闘する経営者」
業種:ガソリン販売ほか
衆栄商事(株)
2040年には全国で896の市町村が消滅する危機に瀕する。5月に「日本創成会議」が発表したこの予測は大きな反響を呼んだ。その数は全国の約半数の自治体に及ぶ。人口減少のスピードはとくに地方で速い。東日本大震災で甚大な被害にあい、"奇跡の一本松"がある岩手県陸前高田市も、震災前の人口約2万4000人が、現在は2万人程度。津波に襲われたかつての市中心部は復興に向けて、山から土を運んで大規模な土地の嵩(かさ)上げ工事が急ピッチで進められているが、工事が済んでも住人が戻ってくる保証はない。
陸前高田や大船渡市など岩手県沿岸南部の気仙地区で、人口減少に歯止めをかけようと奮闘している経営者がいる。自動車教習所の高田自動車学校、衆栄商事などを経営する田村滿氏だ。田村氏は陸前高田で自動車教習所を経営しているが、いずれも経営危機に陥った県内の平泉町、遠野市にある教習所の経営にも手を広げることになった。人口減で環境は厳しいが、「合宿免許とグリーンツーリズムを結び付けられないか」などと事業安定化のアイデアを練る。
一方、衆栄商事は大船渡市など2カ所でガソリンスタンドを経営していたが、いずれも震災で壊滅的な打撃を受けた。ガソリン需要の回復が見込めないため廃業も考えたというが、「従業員の雇用を守るため」に業態転換することにした。その第1弾が、1ミリ程度の細かい「スラリー氷」の製造だ。海水を使った氷で、魚体を傷めず、通常の氷より鮮度維持期間も長い。大枚をはたいて製造装置を導入したが、なかなか地元漁協などに受け入れてもらえない。
そこで、三陸沿岸で水揚げされるイカ、タラ、サケ、ブリを使った粕漬食品の開発を思いつき、今年6月から販売を始めた。魚だけでなく、酒粕、味噌などの原料も地元産、製造も地元企業で販売が衆栄商事という"オール気仙"だ。これだけでなく、田村氏は農園経営や、3年前に地元起業家を育成する企業も設立。代表取締役を務め、地域の産物を生かしたパスタ製造や野菜販売などで約40人の起業家を育成するなど成果が出ているという。
田村氏は「人口減少が続く地域を何とかしなければならない。地域の文化を残すには、仕事をつくって雇用を創出するしかない」と言い切る。地域資源を生かし、多方面の事業で雇用創出に挑む田村氏のような起業家が全国で活躍し、日本創成会議の予測を覆すことを期待したい。
著作者:e-中小企業庁&ネットワーク
出典:中小企業ネットマガジン
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