有限会社野本商店事件
(東京地裁平成9年3月25日判決)
従業員全員が、就業規則の定めのとおりの昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことにつき、何らの要求等をしなかったことから、黙示の承諾をしていたとして、就業規則の変更によらない賃金の減額を認めた。
【事案の概要】
Yの就業規則には、「定期昇給は、5月、11月の年2回とし、5月は基本給の5%、11月は基本給の10%昇給させる。」、「賞与として年2回、7月に基本給の0.5ヶ月分、12月に基本給の1ヶ月分の臨時給与を支給する。」との規定があった。
しかし、平成6年以降、同規定どおりの賃金及び賞与が支払われていないとして、従業員Xが差額を請求したところ、Yは、同規定どおりの昇給、賞与の支払をしないことについて、全従業員が同意していたとして、Xの請求に応じていない。
【判決の要旨】
本件給与・退職金規定の施行された当時のYの営業は盛業状況にあって、この規定のとおりの昇給を実施し、賞与を支給することも可能ではあったが、その後のYの業績の悪化、とりわけ、昭和56年11月20日の手形不渡事故発生の危機に直面して以降の業績は悪化の一途を辿るようになり、このようなことから右規定のとおりの昇給の実施及び賞与の支給は困難な状況となり、このような状況は一向に改善されず、現代表者が経営を引き継いだ以降は昇給の実施を全くしないようになったばかりか、賞与についても僅かの支給に止まっていたというのであり、従業員は、このようなYの経営状況を知っていたためと考えられるが、Yの右のような措置に対し何らの要求等をしなかったというのである。
そうすると、Xをも含めた従業員全員は、Yが右規定のとおりの昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことを暗黙のうちに承認していた、すなわち、黙示の承諾をしていたということができる。
したがって、この点に関するYの主張には理由があることとなるので、Xの請求は理由がない。