東京労務管理総合研究所

  就業規則相談所

就業規則の判例

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就業規則の法的性質とは?

 

秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)

就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるとした。

 

電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)

事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるとした。

 

日立製作所武蔵工場事件(最高裁平成3年11月28日第一小法廷判決)

就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすとした。

 

 

就業規則の効力について

 

(1)就業規則変更の合理性の判断に関する基本的な判例

 

秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)

新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないとした。

 

タケダシステム事件(最高裁昭和58年11月25日第二小法廷判決)

就業規則の変更が合理性を判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求されるとした。

 

大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)

就業規則の定めが合理的なものであるとは、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なおその労使関係における就業規則の定めの法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものをいうとした。
特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、その定めが、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるとした。

 

第一小型ハイヤー事件(最高裁平成4年7月13日第二小法廷判決)

就業規則による賃金の計算方法の変更につき、新計算方法に基づき支給された賃金が全体として従前より減少しているならば、合理性は容易に認めがたいが、減少していないならば、従業員の利益をも適正に反映しているものである限り、その合理性を肯認することができるとした。

 

第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)

就業規則の変更の合理性の有無は、具体的には、労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであるとした。

 

みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)

就業規則の変更により一方的に不利益を受ける労働者については、不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないとした。

 

 

(2)就業規則変更の効力を肯定した例

 

大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)

就業規則の変更により、退職金の支給倍率の低減が行われたが、給与調整により、ほぼ同額の給与の増額が行われており、さらに休日・休暇、諸手当、旅費等で有利な取扱いがなされ、定年も延長されていた。

 

第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)

賃金の減額を伴う55歳から60歳への定年延長を定めた就業規則の変更につき、定年延長の必要性、延長による労働条件の改善、福利厚生制度等の適用延長等の不利益緩和の措置、労働組合との労働協約締結の結果行われたことから合理性が認められた。

 

羽後銀行(北都銀行)事件(最高裁平成12年9月12日第三小法廷判決)

就業規則の変更により、完全週休2日制の導入と1日の労働時間増(年95日の特定日は1時間、その他は10分)を行ったことにつき、平日の労働時間延長の必要性、変更後の労働時間も必ずしも長時間でないことから合理性が認められた。

 

函館信用金庫事件(最高裁平成12年9月22日第三法廷判決)

就業規則の変更により、完全週休2日制導入と1日25分の労働時間増を行ったことにつき、平日の労働時間を延長する必要性、変更後の労働時間も必ずしも長時間でないことから合理性が認められた。

 

県南交通事件(東京高裁平成15年2月6日判決)

就業規則の変更により、年功給の廃止とそれに代わる奨励給の創設、月例給への一本化及び賞与の廃止を行ったことにつき、経営上の必要性、不利益を補う代償措置、労働生産に比例した公平で合理的な賃金の実現、組合との交渉から合理性が認められた。

 

 

(3)就業規則変更の効力を否定した例

 

御國ハイヤー事件(最高裁昭和58年7月15日第二小法廷判決)

就業規則である退職金規定の不利益変更につき、代償となる労働条件を何ら提供せず、不利益を是認させるような特別の事情も認められないので、合理性が認められなかった。

 

朝日火災海上保険事件(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決)

就業規則による63歳から57歳までの定年年齢の引き下げと同時に行われた退職金の基準支給率の引き下げにつき、退職金支給率の引き下げには必要性が認められたが、定年年齢の引き下げによって退職することとなった労働者の退職金を引き下げるほどの合理性を有するとは認められなかった。

 

みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)

就業規則の変更により、55歳以上の行員の賃金削減を行ったことについて、多数労働組合の同意を得ていたが、高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであり、救済ないし緩和措置の効果が不十分であったため、合理性が認められなかった。

 

アーク証券事件(東京地裁平成12年1月31日判決)

就業規則の変更により、変動賃金制(能力評価制)を導入したことにつき、一般的な制度として見る限り、不合理な制度であるとはいえないが、代償措置等が採られておらず、変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性がなかったので、合理性が否定された。

 

 

就業規則の効力発生要件について

 

朝日新聞社小倉支店事件(最高裁昭和27年10月22日大法廷判決)

会社側が労働基準法第106条第1項所定の爾後の周知方法を欠いていたとしても、既に従業員側にその意見を求めるため提示され、その意見書が附されて届け出られたものであるから、就業規則自体の効力を否定する理由とはならないとした。

 

日本コンベンションサービス事件(大阪高裁平成10年5月29日判決)

就業規則における懲戒解雇された者には退職金を支給しないとする定めの新設について、適法な意見聴取が行われた上で届けられたものともいえず、一般的に従業員に周知した事実が認められないことから、その効力が生ずるものではないとした。

 

須賀工業事件(東京地裁平成12年2月14日判決)

賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」旨定めた賃金規則が、労働基準法106条1項所定の爾後の周知方法を欠いているとしても、それを理由に就業規則及び賃金規則が無効であるということはできないとした。

 

日本ニューホランド事件(札幌地裁平成13年8月23日判決)

会社と労働組合で組織される経営協議会の決定事項が就業規則として認められるかについて、少なくとも労働基準法第106条第1項の定める方法と同視し得るような周知方法が採られない限り、就業規則としての効力は認められないとした。

 

NTT西日本事件(京都地裁平成13年3月30日判決)

労働基準監督署に対する就業規則の届出は、就業規則の効力発生要件ではなく、使用者が就業規則を作成し、従業員一般にその存在及び内容を周知させるに足る相当な方法を講じれば、関係当事者を一般的に拘束する効力を生じるとした。

 

フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)

就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとした。

 

 

その他の要件について

 

(1)就業規則の強行的直律的効力に関する例

 

朝日火災海上保険事件(最高裁平成6年1月31日第二小法廷判決)

原審において、会社と労働組合との間でなされた退職金を減額する旨の口頭の合意の非組合員への適用について、会社と労働者との間に黙示の合意が成立するに至っていたかを何ら判断していなかったため、原判決が破棄された。

 

有限会社野本商店事件(東京地裁平成9年3月25日判決)

従業員全員が、就業規則の定めのとおりの昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことにつき、何らの要求等をしなかったことから、黙示の承諾をしていたとして、就業規則の変更によらない賃金の減額を認めた。

 

(2)就業規則と労使慣行の関係

 

ソニー・ソニーマグネプロダクツ事件(東京地裁昭和58年2月24日判決)

労使慣行が一種の規範として労働条件を規律していたが、黙示的にも個別的な労働契約の内容になっていなかった場合における、就業規則による労使慣行の変更について、就業規則の不利益変更法理によって判断した。

 

(3)過半数代表者に関する例

 

トーコロ事件(最高裁平成13年6月22日第二小法廷判決)

労使協定における過半数代表者について、役員を含めた全従業員によって構成される親睦団体の代表者は、労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないとした。

 

(4)就業規則の適用関係

 

大興設備開発事件(大阪高裁平成9年10月30日判決)

採用時に60歳を超えていた者に対する就業規則の退職金に関する定めについて、就業規則には高齢者及びパートタイムの従業員にも適用されることを前提とした定めがあること、高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがないことから、適用があるとした。

 

済生会・東京都済生会中央病院 定年退職事件(東京高裁平成12年12月25日判決)

同一企業の複数の事業場にそれぞれ異なる内容の就業規則が制定されていて、調整規定が設けられていない場合に、その複数の事業場の職務を兼務している労働者がいるときは、ある事業場の職務に関しては当該事業場の就業規則が適用になるのが原則であるが、複数の事業場の職務が明確に区別できないような場合等には、各就業規則の合理的、調和的解釈により、その労働者に適用すべき規定内容を整理、統合して決定すべきとした。

 

 

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