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須賀工業事件

(東京地裁平成12年2月14日判決)

 

賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」旨定めた賃金規則が、労働基準法106条1項所定の爾後の周知方法を欠いているとしても、それを理由に就業規則及び賃金規則が無効であるということはできないとした。

 

【事案の概要】

 

Yは、空気調和、給排水衛生設備の設計施工などを業とする株式会社であり、XらはYの従業員であって、平成10年6月30日から同年8月31日までの間にYを退職した者である。YにはA労働組合があり、XらはいずれもA組合の組合員であった。

 

平成7年に改正されたY会社の賃金規則22条には、賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」との定めがあるが、当該賃金規則は周知されていなかった。一方、前年度下期賞与は従業員賞与支給内規により原則として毎年6月10日に支給されるものとされていた。当該内規も周知されていなかったが、例年、下期賞与は同日に支給されてきたものである。

 

YとA組合は、平成9年度下期賞与の金額について、平成10年9月21日に妥結し、その支給日を平成10年9月30日とすることに合意した。Yは同日従業員に対し賞与を支払ったが、Xらに対しては本件賞与の支給日に在籍しておらず、賃金規則22条に、支給日在籍要件があるという理由で、本件賞与を支払わなかった。

 

そこで、Xらは、当該賃金規則は周知されておらず、賃金規則に定める支給日在籍要件は無効であるとして争った。

 

【判決の要旨】

 

本件就業規則が37条において「従業員の賃金は別に定める従業員賃金規則によりこれを支給する。」と定めていることからすれば、Yの従業員の賃金について定めた本件賃金規則は本件就業規則と一体のものというべきである(中略)。

 

Yは平成7年6月1日から実施された本件就業規則及び本件賃金規則の改定に当たって労働基準法90条に基づいて労働者の過半数で組織する労働組合としてA組合に対し意見を聴き、A組合の委員長の意見書を添付して所管行政庁に届け出ているのであるから、仮にYにおいて労働基準法106条1項所定のじ後の周知方法を欠いていたとしても、それを理由に本件就業規則及び本件賃金規則自体の効力を否定する理由にはならないものと解するのが相当である(最高裁昭和27年10月22日大法廷判決)。

 

そうすると、Yにおいては、本件就業規則及び本件賃金規則の改定後にYに入社した従業員に対し本件賃金規則を配布せず、本件就業規則及び本件賃金規則を改定する前からYに在籍していた従業員に対しては本件就業規則も本件賃金規則も配布せず、Yの事務部長が本件就業規則及び本件賃金規則を保管していたというのであるが、仮にこれでは本件就業規則及び本件賃金規則について労働基準法106条1項所定のじ後の周知方法を欠いているとしても、それを理由に本件就業規則及び本件賃金規則が無効であるということはできない。

 


 

なお、本件賃金規則22条にいう「支給時点の在籍者」とは、現実に賞与が支給される日が団体交渉の妥結の遅れや資金繰りなどの諸般の事情により下期賞与の支給が予定されている毎年6月10日より後にずれ込んだ場合にはそのずれ込んだ日にYに在籍する従業員を意味するものと解することはできず、「下期賞与が支給される者」とは、下期賞与の支給が予定されている毎年6月10日にYに在籍している従業員であるとして、Xらの請求は認容されている。