トーコロ事件
(最高裁平成13年6月22日第二小法廷判決)
労使協定における過半数代表者について、役員を含めた全従業員によって構成される親睦団体の代表者は、労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないとした。
【事案の概要】
Yと「会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる」ことを目的とする親睦団体の代表者であるAとの間で36協定が結ばれていた。Yが、これに基づいて残業命令を行ったところ、Xは拒否した。Yはこのことを理由にXを解雇した。
【判決の要旨】
原判決に所論の違法はない。
【原判決の要旨】
いかなる場合に使用者の残業命令に対し労働者がこれに従う義務があるかについてみるに、労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることに関し、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に右36協定の範囲内で一定の義務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷平成3年11月28日判決(日立製作所事件))。そして、右36協定は、実体上、使用者と、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、そのような労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者との間において締結されたものでなければならないことは当然である。
ところで、本件36協定は、平成3年4月6日に所轄の足立労働基監督署に届け出られたものであるが、協定の当事者は、Yと「労働者の過半数を代表する者」としての「営業部A」であり、協定の当事者の選出方法については、「全員の話し合いによる選出」とされていた。
そこで、Aが「労働者の過半数を代表する者」であったか否かについて検討するに、「労働者の過半数を代表する者」は当該事業場の労働者により適法に選出されなければならないが、適法な選出といえるためには、当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して36協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要というべきである(昭和63年1月1日基発第1号参照)。
この点について、Yは、Aは「友の会」の代表者であって、「友の会」が労働組合の実質を備えていたことを根拠として、Aが「労働者の過半数を代表する者」であった旨主張するけれども、「友の会」は、原判決判示のとおり、役員を含めたYの全従業員によって構成され(規約1条)、「会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる」(規約2条)ことを目的とする親睦団体であるから、労働組合でないことは明らかであり、このことは、仮に「友の会」が親睦団体としての活動のほかに、自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を目的とする活動をすることがあることによって変わるものではなく、したがって、Aが「友の会」の代表者として自動的に本件36協定を締結したにすぎないときには、Aは労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないから、本件36協定は無効というべきである。
以上によると、本件36協定が有効であるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、それを前提とする本件残業命令も有効であるとは認められず、Xにこれに従う義務があったとはいえない。