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判例 社保未加入で慰謝料を支払え (2015年12月号より抜粋) | |
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1年にわたり手続をおこたる 法律上の期待権を侵害 小規模企業やサービス業関連では、労働・社会保険加入手続きを怠る例がみられます。義務不履行の会社は、とこまでその責任を追及されるのでしょうか。本事件は、退職した従業員が期待権を侵害されたと訴えたもので、裁判所は「年金受給等に悪影響があるかもしれないという精神的負荷をかけた」と述べ、慰謝料支払を命じました。 P社事件 東京地方裁判所(平26・12・24判決) 最近では、建設業の社会保険未加入問題がクローズ・アップされています。零細業者が保険加入手続きを放置していると、工事の受注面でさまざまな障害が生じます。 しかし、そもそも労働・社会保険は強制加入が建前です。適用事業に該当すれば、未加入という選択はできないはずです。それにも関わらず、手続を放置していると、事業主はどんなペナルティーを受けるのでしょうか。 事業主とお役所の関係については、法律上に規定があります。個々の労働者に関する手続き関連は、以下のとおりです(労災保険は従業員単位の加入手続はありません)。
一方、事業主と労働者の関係に関して、明文の規定は設けられていません。本事件は、労災やセクハラ等が絡む複雑な内容です。本欄では、社会保険の加入関係に絞ってポイントをご紹介します。 Aさんは、商業デザインを営むB社にグラフィックデザイナーとして採用されました。 B社の求人票の加入保険欄には、雇用・労災・健康・厚生年金の適用があると記載されていました。しかし、B社の代表取締役は、Aさんから加入を求められたにもかかわらず、約1年間にわたって手続を遅滞させていました。 判決文では、「雇用主は、労働契約の付随義務として、社会保険の加入手続を取るべき義務を負っており、労働者は、加入手続を履行してもらうという法律上の利益ないし期待権を有している」、「使用者が故意または過失により加入手続きを履行しなかったときは上記利益・期待権を侵害したことになる」と述べました。そのうえで、Aさんに対し、「将来、厚生年金の資格期間を満たさないなどの悪影響があるかもしれないという精神的負荷をかけ、精神的苦痛という損害を与えた」と認定しました。慰謝料・弁護士費用は6万円で、代表取締役と会社が連帯して支払うべきものとされました。 今回は未加入期間が短いケースですが、長期間放置していれば、さらに重い責任を追及されるおそれもあります。経営者の皆さんには、届出漏れがないようご注意をお願いいたします。
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