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県南交通事件

(東京高裁平成15年2月6日判決)

 

就業規則の変更により、年功給の廃止とそれに代わる奨励給の創設、月例給への一本化及び賞与の廃止を行ったことにつき、経営上の必要性、不利益を補う代償措置、労働生産に比例した公平で合理的な賃金の実現、組合との交渉から合理性が認められた。

 

【事案の概要】

 

Xらは、タクシー会社であるYの従業員であるが、Yは、従来の年功給に代えて各人の稼高に応じて算出される奨励給を新設するとともに、賃金を基本給と奨励給からなる月例給に一本化して賞与を廃止することとして、これをXらの属するA労働組合に提案した。しかし、A組合は実質的な協議をすることを拒否したため、Yは、就業規則を変更して賃金制度を改正し、これを従業員に周知徹底した上、平成6年4月15日からこれを実施した。

 

【判決の要旨】

 

本件就業規則の変更は、同業他社との競争上、Yが不利な立場に立たないよう、同業他社の賃金制度に近づけようとしたものである。すなわち、Yが新規の従業員を円滑に募集したり、在職する従業員の雇用を継続していく上での障害を取り除くという観点からのものであった。本件就業規則の変更は、Yの経営体質強化に資するものであったということができるのであって、Yの運営上、高度の必要性があったものと認められる。

 

そして、賃金制度の変更に伴って、これに見合う代償措置がとられたため、変更後の労働条件は必ずしも従業員の側に不利益ばかりをもたらすものではなかった。そして、新たな労働条件は、労働生産性に比例した公平で合理的な賃金を実現するという利点を生じさせており、新規の従業員の採用が円滑化し、また、在職する従業員の働く意欲にもよい影響を与えるようになったことが伺われる。本件就業規則の変更は、合理性と相当性を兼ね備えているものということができる。

 

また、Xらの属するA組合との交渉の経緯や、他の従業員が賛成しあるいは同意している状況からすると、本件就業規則の変更について適正な手順が履践されたということができる。

 

そして、平成6年当時の社会一般の状況からしても、労働者があげた業績、すなわち労働生産性と賃金とが見合うものであることが強く求められるようになっていたのである。

 

以上の諸点を考慮すると、本件就業規則の変更は、最高裁判所昭和43年12月25日判決及び最高裁判所昭和63年2月16日判決によって形成された合理性の要件を充足するものということができるのであって、本件就業規則の変更は、不利益を受ける労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものということができる。したがって、本件就業規則の変更は有効なものである。

 

Xらは、勤続年数が短く、年功給が少ないころ、薄給に甘んじ、年数が増加して相当な額の年功給を得られるようになるまで我慢していたもので、年功給を廃止するのは、過去の不利益を無視するものである旨主張する。しかし、Xらの勤続年数が短かった当時は、高額の年功給を受ける従業員は存在しないか、ごく例外的な存在であったと認められるのであって、勤続年数が短いことによる不利益を我慢していたというのは実情に合わない主張というべきである。そうすると、年功給の廃止が、過去の不利益を無視するものであるなどということはできない。

 

そして、年功給の廃止は、年功給の制度による公平を欠いた賃金の配分を是正するものと認められるのである。そうだとすると、年功給によってXらが得る権利は、他の従業員の犠牲の上に成り立った利益であるとの批判を免れないのであり、これを永続的に得ることができなくなったからといって、その不利益を過大視するべきではない。

 

他方、本件就業規則の変更は、従業員の定着と、新規従業員の円滑な獲得の観点から、会社運営上の高度の必要性があるものと認められる。そして、本件就業規則の変更の必要性は、上記のような観点によるのであるから、仮に、平成6年当時、Yが現在よりも利益が出ていたという状況にあったとしても、これによって、上記の就業規則の変更の必要性が左右されるものではないというべきである。

 

そうすると、Xらに生じる不利益を考慮しても、本件就業規則の変更には、労使関係における就業規則の法規範性を是認できるだけの合理性を肯定することができる。