判例 サービス残業の未払い金、倍返し (2003年11月号より抜粋)  
   

 

 
 

サービス残業が露見。付加金請求も容認。

サービス残業はもちろん違法ですが、自己申告制の場合、「本人が自ら時間外数を申告した」という事実は残ります。その本人が後から、「実はもっとたくさん残業していた」と訴え出たら、どうなるでしょうか。本事件で、事業主側は残業の強要など悪質な行為はなかったと主張しましたが、裁判所は残業代に加え、同額の付加金の支払請求も認容しました。

大阪地方裁判所(平15・4・25判決)


訴えを起こしたのは、病院でレセプト処理等を担当していた職員です。病院ではタイムカードを設置していましたが、残業時間は自主申告させるという方法を取っていました。「労働時間の適正な把握のための指針」(平成13・4・6基発第339号)では、「自己申告制が直ちに違法ではない」と述べています。

過去の判例に従えば、タイムカードがあっても、必ずそれに従って残業時間を計算する義務はありません。要は、違法なサービス残業が行われていたかどうか、という問題です。

病院では、事務長が事あるごとに「残業が多すぎる」と注意するなど、時間外を請求しにくい雰囲気がありました。このため、職員は過少申告を余儀なくされていましたが、堪忍袋の緒が切れ、タイムカードに従った時間外の支払と付加金の支払を求めて、訴えを起こしたわけです。

付加金とは、労基法第114条に基づく制度で、「裁判所は、違法に賃金を支払わなかった使用者に対して、未払い金のほか、これと同額の付加金の支払を命じることができる」というものです。早い話、「倍返し」の命令が可能なわけです。

病院側は、「仕事内容がルーティン・ワークでなく、本人の仕事のペースを尊重して仕事をさせていたのだから、他の職員より超過勤務時間が上回っても、それは自己管理の結果だ」と主張しました。しかし、裁量労働制の対象者でない労働者を相手に、こんな論理を展開をしても話になりません。レセプト作成は、期日が次々に到来する業務ですから、「仕事のペースは本人任せ」というスタイルでこなせるわけがありません。このため、判決文では、「処理すべき業務が終了しているにも関わらず就労以外の目的で職場に残留していたのではなく、タイムカード刻印の時刻まで時間外労働に従事していた」と認定しました。

さらに、付加金請求について、会社は、「管理者側の悪質な残業の強要とはほど遠いので、付加金支払命令の対象となるべき高度な違法性はない」と反論しています。これに対し、裁判所は「その支払を免除しなければならないような特段の事情は認められない」と判示しました。

結局、会社側はサービス残業を強要した代償として、未払い金およびそれと同額の付加金を支払う羽目に陥りました。「自分で申告された分の割増賃金さえ払えば、賃金不払の問題は発生しない」という病院側の甘い読みは、コナゴナに打ち砕かれたわけです。

 

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