年休の時効消滅の解釈 (2003年12月号より抜粋)  
     
 

退職者から年休申請あったが時効消滅の解釈はどちらが正しいか

 

Q

成績不良の従業員に対し、30日前に解雇予告したところ、残りの労働日全部について年休を申請してきました。調べてみると、当人申請の年休には一部、時効消滅分が含まれているようですが、その解釈に違いがあって、もめています。年休の時効をどう考えるのか、教えてください。

 

 
 

A

退職前に年休を申請された場合、「解雇予定日を超えての時季変更は行えない」(昭49・1・11基収第5554号)ので原則としてすべて認める必要があります。そこで、時効消滅の問題を持ち出して、争いとなるケースがままあるようです。

年休の時効については、学問的には難しい問題もあります。しかし、「労基法第115条(時効)の規定により2年の消滅時効が認められる」(昭22・12・15基発第501号)という行政解釈があるので、実務的には2年と考えて処理すべきでしょう。

問題は、もう少し深いところにあります。2年前に10日の年休権が発生し、その年には1日も年休を使わなかった人がいるとします。この場合、10日の年休は丸々翌年に繰り越されます。翌年11日の年休が発生し、11日の年休を使ったとすると、その次の年に残っている年休は何日でしょうか。

考え方は、2通りです。

まず第1のパターン。2年目に使った年休11日のうち、10日分は1年目に発生した年休を充当します。ですから、2年目に発生した年休については、その年に使ったのは1日だけ。残りの10日間が翌年に繰り越されます。

次にパターン2。2年目に使った年休は、2年目に発生した年休11日だったとみなします。1年目に発生した年休は、2年の消滅時効により、2年目の年末に権利がなくなります。その結果、翌年に繰り越される年休はゼロになります。

従業員は、パターン1の考えを主張するでしょう。会社は、パターン2の立場を取ります。実のところ、労基法には、どちらが正しいという規定は存在しないのです。したがって、労使が合意のうえで、どちらと定めても構わないのです。

それでは、定めがなければどうでしょうか。ここで、学説は2つに分かれます。

1つは民法に根拠を求める説です。民法第489条第2項では、債務の充当に当たって、「債務者のために弁済の利益多きものを先にする」と定めています。債務者(年休を与える会社)にとっては、今年発生した分の年休から先に使う方が利益が大きいので、そういう形で処理すべきだというのです。

一方、「年休の消化は、繰越分からなされていくと推定すべきである」という有力な説もあります。こちらの方が常識的な解釈で、一般人の感覚にはしっくりきます。厚生労働省は、この第2説を支持しているようです。

ですから、年休は古い方から使って、残った分がどんどん翌年に繰り越されて行くと解釈するのが、穏当です。

 

 
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