判例 研修中の年休は認められない (2003年12月号より抜粋)  
   

 

 
 

技能習得に障害あり。けん責も相当と判断

研修をやっている真っ最中に、従業員が年休を申請してきたらどうでしょうか。コース全体を終えないと、研修の目的である技能修得は難しくなります。会社は、突っぱねることができるのでしょうか。「そんなの当然だろう」と考える経営者が多いでしょうが、実はこの問題、最高裁まで争われたのです。結果は、会社側「薄氷の勝利」でした。

N電信電話事件最高裁判所(平12・3・31判決)


年休については、皆さんご存知のとおり、従業員側には「時季指定権」があり、会社側には「時季変更権」があります。しかし、両者の力関係は、比べ物になりません。年休に関しては、会社が変更権を行使したけれど、「恒常的に人員不足で、常に変更権を行使するような状態は認められない」と結論付けた判例が大変多いのです。

しかし、研修中となると、話が違ってきます。1年通して、いつも年休を取れないような状態は確かに違法でしょうが、研修中くらいは、従業員にも我慢してもらわないと困ります。

本件では、新技術の修得のため、職場の代表として1ヵ月の研修に出された社員が、年休申請して問題になりました。会社は「もってのほか」と時季変更を命じましたが、本人は強引に休んでしまいました。そこで譴責処分が下されたのですが、「年休を取ったことで、譴責を受けるなんておかしい」と従業員側が提訴しました。

実は、高裁段階では、会社側が敗訴したのです。「1日、年休を取ったからといって、自習もできるし、訓練の初期目的の達成が困難とはいえない。現に、本人は、おおむね普通以上の成績で、研修を終了している」というのが、高裁の判断です。

これに対し、最高裁は、「訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識・技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができる」と一般論を述べたうえで、本件では譴責も有効という判断を下しています。

「自習もできる」という反論に対しては、「自習することは、本人の意思のみにかかっている」ため、会社は、自習がなされることを前提にして、時季変更権の行使を決定する必要はないと断じました。「普通以上の成績で卒業した」点についても、「時季変更権の行使の時点で会社は予見できないうえ、予定されていた知識・技能の修得に不足を生じなかったことを直ちに裏付けるに足る事情ともいえない」と述べています。

最終的に、時季変更もやむなしという最高裁の判断は、誰もが納得するところでしょう。しかし、実は、会社側にとって僅差の勝利だった点には、注意が必要です。

研修が、3ヵ月とか長期に及ぶ場合はどうでしょうか。内容が、教養的・一般的なもので、必ずしもすべてをマスターする必要がない場合はどうでしょうか。すべてのケースで研修中の時季変更が可能と即断するのは、危険です。

 

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