二重就労社員の労災保険 (2004年5月号より抜粋)  
     
 

ダブルワーカーが業務中ケガをしたら2社分の賃金補償を受けられますか?

 

Q

当社で夜間にアルバイトしている社員のなかには、他社と掛け持ちで仕事している人間も少なくありません。万一、当社内で業務上災害が発生したとします。労災の申請をするときは、他社就労分の賃金も合わせて計算するのでしょうか。そうしないと、せっかくの保険給付も少額で、生活に不安が生じます。

 

 
 

A

片方の保険だけを適用

1社からの報酬だけでは、生活を支えられず、複数の職場で働く「ダブルワーカー」が増えています。しかし、そうした働き手を保護する仕組みが、必ずしも完備されているとはいえません。

労働者を一人でも使用する事業場は、労災保険に加入しないといけません(暫定任意適用事業を除きます)。ですから、ダブルワーカーは、2つの事業場でそれぞれ労災保険の適用を受けられます。そうすると、業務上のケガ等が発生し、収入が途絶えれば、2つの事業場から労災保険給付を受けられそうな気もします。

労基法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。

最初の事業場で8時間働いた後、次の事業場で1時間だけ働いたとします。1つの事業場単位でみれば法定時間の枠内に収まっていても、2つの事業場の労働時間を「通算」して8時間を超えれば、時間外割増を払う必要があります。そういう意味では、法律も、ダブルワーカーの存在を想定していないわけではないのです。

しかし、労災保険は、原則として、事業主の支配下にあって、業務上の災害が発生したときに支給されます。2つの事業場で、同時に事業主の支配下にあるという状況は考えにくいでしょう。お尋ねのケースでは、貴社内で事故が発生すれば、貴社の支配下にあったのですから、貴社の労災保険のみが適用されます。

労働者の生活の安定を考えれば、2つの会社から受ける賃金をベースに休業補償給付の金額を決めるのがベストです。しかし、自社にまったく責任がないのに、勝手に保険を使われるのは、相手方企業が承知しないでしょう。2つの事業場で働き、一方の事業場で業務上の災害を負ったとしても、他方の会社にとっては私生活中の出来事に過ぎません。

大半の企業では、就業規則に「二重就職の禁止」をうたっています。それに反し、隠れてアルバイトした社員の尻拭いなど、真っ平ごめんというのが普通の反応でしょう。さらに、メリット制の対象企業なら、自社が払う保険料額にも影響してきます。ですから、実務上も、給付基礎日額の算定上、2つの事業場の賃金通算は認められていません。

労災保険の給付基礎日額には、最低保障(4,180円)もあります。貴社で払う賃金が少ない場合は、この最低保障額の8割(休業補償給付6割、休業特別支給金2割)で我慢してもらうしかないでしょう。

 

 
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