判例 試用期間中の社員の解雇 (2005年2月号より抜粋)  
   

 

 
 

試用社員の解雇無効 高い専門性は不要

従業員を雇うとき、大半の企業では、とりあえず試用期間を設けます。しかし、現実には、試用期間中の社員でも解雇は容易に認められない傾向にあります。本事件で、会社は試用期間中の女性社員の「夫が同業他社に勤めていて、秘密漏洩のおそれがある」との理由で解雇しました。ところが、裁判所は合理性を否定し、解雇無効と判断しています。

K社事件 大阪地方裁判所(平16・3・11判決)


平成16年1月施行の改正労基法で、「合理的な理由のない解雇は無効」という原則が明文化され、今後ますます、解雇の正当性をめぐる裁判が増えると予想されます。

会社は、わざわざ試用期間を設けているのですから、業務適性のない社員は途中解雇(あるいは期間満了で解雇)できるはずだと考えがちです。しかし、過去の裁判例をみると、「働きぶりが気に入らない」といって無制限に解雇できるわけではなく、合理的理由のない解雇は効力を否定されています。本判決でも、「試用期間中の解約権の行使は、通常の雇用契約における解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきだが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に限り許される」と述べています。

会社は、試用期間中に留保されている解約権を行使するに当たって、次の2つの理由を挙げました。

  1. 夫が同業他社に勤務しているため、会社のノウハウ維持が困難になる可能性がある。

  2. 会社の定める習熟度に達していない。

このうち、(1)の理由は、試用社員の解雇をめぐる裁判では、過去にあまり例のないものです。たとえば、新しく雇った技術員の夫が、最先端技術分野でしのぎを削るライバル企業で、やはり研究員として勤務していた場合など、機密保持の面で問題が生じるおそれがあります。一見、いかにももっともらしい理由のようにも思えます。

しかし、本件では、解雇された試用社員の業務は、高度の専門性を要しない帽子の縫製でした。このため、裁判所は「会社が主張する縫製の技術・ノウハウの内容がどのようなものであるかは必ずしも明らかではなく、法的保護の対象になるような性質のものであるとも認められない」と断じています。会社が解雇を決定する際、たまたま夫が同業他社勤務だったという事実を針小棒大に取り上げたような印象を免れません。

(2)についても、会社が「未経験者も可」として募集していた経緯もあり、「少し不器用で、作業が遅くリズム感が悪い、習熟度が悪い」等の理由は、到底、正当な解雇理由といえないと判断されています。さらに、「従業員は3週間で解雇されているが、3ヵ月の試用期間が設けられている趣旨に照らせば、その期間に習熟度を上げていくことが求められる」とも指摘しています。

結果的に会社は30万円の慰謝料支払いを命じられましたが、裁判所の判断がこのように厳しい点には注意が必要です。

 

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