年休を使って転職活動 (2006年4月号より抜粋)  
     
 

年休を使って転職活動する社員にペナルティーを課せないでしょうか?

 

Q

このところ、立て続けに年休を取得する社員がいます。漏れ伝え聞くところでは、他社の面接を受けているようです。会社に対する背信行為ですから、厳重に処分したいと思います。本人が退職願をもってきたとき、「許可なく他社に就労したときは懲戒解雇する」という規定を適用できないでしょうか。

 

 
 
 

業務を妨害しているとは言えず、懲戒は不可。

従業員が、在職中に転職先を探すのは、ごくありふれた行為です。「年休を取って、面接に出かけた」点にカチンときておられるようですが、年休の取得理由には基本的に制限がありません。

「一斉休暇闘争のようにストライキのために利用する場合」を除いては、休養のためでないからといって年休を拒否できませんし、不正利用で罰することもできません。「複数の申出が競合する」等の事情がなければ、会社には利用目的を尋ねる権利がなく、本人が「面接のため」という取得理由を申請しなかったとしても、懲戒は不可能です。

後は、「許可なく他社に就労したとき」という解雇規定を適用できるか否かです。労基法第20条は、30日前の解雇予告(または30日分の予告手当の支払い)を義務付けていますが、労働者の責めに帰すべき事由があるときは、労働基準監督署長の認定を受けて即時解雇することも認められています。その認定基準(昭23・11・11基発第1637号)は、懲戒解雇の合理性を考えるうえでも重要な文書です。即時解雇の認定事由の第4番目には、「他の事業場へ転職した場合」が挙げられています。

従業員本人は、応募企業の採用が確定してから、退職の手続きを取るでしょう。そういう意味では、貴社の在職期間中に、「他社での就労をすでに約束した状態」になるわけです。

しかし、だからといって、「許可なく他社に就労したとき」という条文を拡大解釈して当てはめるのはムリでしょう。

一般に、在職中に他社で現実に就労するという状況が生じても、懲戒解雇できるとは限りません。就業規則中に兼業を禁止する規定が存在しても、「その結果として、疲労が蓄積し、労働効率が著しく低下する場合や、安全・健康管理上、危険が認められる場合など正常な業務を阻害する場合」にのみ、処分も可能になります。

形式的に兼業禁止という条項に該当しても、それに基づき解雇することが「客観的に合理約な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、権利濫用で無効」となります。

お尋ねのケースでは、現在は未だ就労を開始していない段階で、年休を取って面接に行ったからといって業務を阻害するとはいえないでしょう。憲法第22条は、職業選択の自由を宣明しています。在職中の求職活動を理由に退職届を突き返し、解雇を通告するような行為は認められません。有為な人材だったとすれば、むしろ何を不満として転職の決断に至ったか、その理由を確かめ、今後の対策を検討すべきでしょう。


(参考)昭23.11.11基発1637号
「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例

  1. 原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合。 また、一般的に見て「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
  2. 賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ほす場合。また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
  3. 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。
  4. 他の事業場へ転職した場合。
  5. 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
  6. 出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合。

の如くであるが、認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。

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