判例 格下げ配転は「嫌がらせ配転」か? (2006年4月号より抜粋)  
   

 

 
 

雇用維持が目的と認定 「格下げ」主張も斥ける

解雇を回避するため、本人の気の進まない業務に配転したり、処遇を引き下げたりせざるを得ない場合もあります。しかし、会社側の措置に対し、本人が「被害者意識」を募らせる危険性も否定てきません。本事件で、訴えを起こした従業員は、配転に伴い低位のタイトル(資格)を付与されましたが、裁判所は、配転措置・資格の格付けのいずれについても、違法性はないという判断を下しました。

東京地方裁判所(平17・6・24判決)


通常のローテーション人事の場合、配転に伴い、処遇は横滑りか、アップするか、どちらかです。みかけ上は栄転でも、実は限りなく左遷に近いというケースもありますが、賃金・資格等は配転以前の水準を維持するのが原則です。

しかし、会社業績が悪くなってくると、すべての従業員に対し、まずまずのポストを用意するのが難しくなります。処遇の低下を伴う配転を実施した場合、従業員は「退職に追い込むのが真の目的だ」と受け取って、トラブルに発展しかねません。会社体力も考慮しながら、ギリギリの線を探る必要があります。

本事件で、会社は従業員に対し、まず営業部門から人材開発室への配転を命じました(第一次配転)。人材開発室の業務は、判決文によれば「自らの能力、適性を見極め、それに合った職務を社外に求めるというもので、自ら企業情報を収集し、出向先の開拓を行い、会社に対し、これら活動の報告を行う」という内容でした。まさに、「肩たたき」と紙一重の措置といってよいでしょう。

しかし、裁判所は「会社はその組織の再編を進めており、営業部門についても、大幅な縮小再編が予定されていたというところ、(略)本人はコンピュータ関係を中心とした各種研修・セミナーを受講し、その結果、第二次配転が実現している」ことから、「人材開発室での業務を命じること自体を違法ということはできないし、退職勧奨を拒否したことによる報復と認めることもできない」と判断しました。

第二次配転は、新たに創設した発送室への移動です。会社では、内勤事務担当者にほぼ給与レンジと連動した「タイトル」を付与していました。本人は、自分の給与水準からいうと「アシスタントマネジャー」が相当と考えたのでしたが、実際に付与されたタイトルはそれより低位の「ジュニアアソシエイツ1でした。

この点について、判決文では「元営業担当の本人には人材開発室在籍当時もタイトルは付与されておらず、タイトルは職員の担当する職務の大きさ・責任の重さに応じて決定されることに照らすと、従前の給与がアシスタントマネジャーの給与レンジに相当するというだけで、当然に当該タイトルを有することにはならない」と述べました。

本事件では、「雇用維持のため、やむをない措置」という会社主張が認められ、ギリギリでセーフという結論が出されました。処遇低下を伴う配転には、いやがうえにも慎重さが求められます。


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