判例 職務転換後の低評価やむなし (2006年12月号より抜粋)  
   

 

 
 

会社に人事評価の裁量権ある 目標基準も許容範囲内

成果主義の人事評価制度を導入した場合、難しいのは「人事異動直後の評価」です。不慣れな職務ですから、最初からベテラン同様の結果を出せるはすがありません。そうした事情を考慮せず、厳しい評価を下し、賞与等を減額するのは許されるのでしょうか。本件は、バックアップ部門の従業員を営業に配置換えした事案です。裁判所は、評価は会社の裁量権内で、権利濫用はないと判示しました。

N社事件 大阪地方裁判所(平17・11・16判決)


人事評価制度が整備されていない会社では、逆に異動の問題は顕在化しません。「よく頑張っている」「話の飲み込みが早い」、そういったレベルで評価しますから、職務内容が変わっても、結果に大きな影響は及びません。

しかし、潜在能力ではなく「表に現れた結果」を評価する会社では、異動が評価ランクに直結します。このため、職務変更後一定期間は「中間ランクに格付ける」「最低基準を設ける」等のショック・アブソーバー(緩衝〉的措置を設けるケースも少なくありません。

本件は、通常のローテーション人事ではなく、業務再編過程に伴う職務転換の結果として、異動が発生しました。会社は電報・電話業務等をアウトソーシング化し、窓口・メンテナンス・後方支援等の職務に就いていた社員を営業職に転換しました。配転命令を受けた社員たちは渋々ながら受諾したわけですが、新しい労働条件をめぐっては労働組合と会社間で話し合いが繰り返されました。

営業社員には、次の4段階の業績評価制度が適用されました。

  1. 期待し要求する程度を著しく上回る

  2. 期待し要求する程度を上回る

  3. 期待し要求する程度

  4. 期待し要求する程度を下回る

異動後、D評価を受け賞与が減額された従業員たちは、会社の措置に納得せず、訴訟を起こしました。従業員たちは、「基準が不明確で、具体性を欠く。結果の開示はあっても説明はなく、紛争処理制度もない」ので、このような恣意的な評価制度に基づき、賞与を減額することは許されないと主張しました。さらに、「成績の量的側面についての評価は、営業経験のない原告らを営業経験のある者と単純に比較したり、担当した顧客の実態を無視しており、不合理である」とも訴えました。

しかし、裁判所は「人事評価制度が完備されていることは望ましいが、完備されていないからといって直ちに評価が違法となるわけではない」「評価に当たっては基本的には使用者の裁量が認められるところ、営業経験のない者にとっては、およそ上げることが不可能な結果を求めるときには合理性が認められない場合もあり得るが、本件では、成績が基準を満たしている者が多く、原告らが担当した顧客についても、成果を上げることが不可能であったとは認められない」と判示し、従業員側主張を退けました。

本件のようなリストラ型配転でなく、通常のローテーション人事なら、もっと大幅に会社側の裁量権が認められると考えられます。

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