諭旨退職者の前歴の照会 (2007年2月号より抜粋)  
     
 

退職者の前歴を知りたいと電話問い合わせあったが答えて差し支えないか

 

Q

経理の不正処理が理由で、諭旨退職扱いとした従業員がいます。1年ほどたった時点で、ある会社から「この人物の採用面接をしたが、貴社の退職理由を確認したい」という電話がかかってきました。事実をそのまま告げても、問題ないでしょうか。

 

 
 

A

本人の同意を要請するのが安全

この問題については、労働基準法と個人情報保護法と二つの角度から検討する必要があります。労働基準法第22条第1項では、「労働者が、退職の事由(解雇の場合にあっては、その事由を含む)について証明書(退職時証明書)を請求した場合には、使用者は遅滞なく交付しなければならない」と規定しています。

しかし、お尋ねのケースでは、元従業員の面接企業(募集企業)からの要請で、木人の請求ではないので、この条文の適用はありません。

同条第4項では、「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の国籍、信条、社会的身分、組合運動に関する通信をしてはならない」と定めています。違反者に対しては、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科せられます。

しかし、禁止される通信事項は制限列挙(昭22・12・15基発第502号)で、「退職の事由」は含まれません。しかも、禁止事項であっても、「事前の申し今わせに基づかない具体的照会に対して回答することは、禁止するところではない」と解されています。つまり、労働基準法上は、照会に答えても法違反に当たりません。

しかし、平成17年4月に施行された個人情報保護法第23条第1項では、「(法令に基づく場合等の例外を除き)、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」と規定しています。

個人情報保護法が規制の対象としているのは、基本的には「個人情報取扱事業者(個人情報によって識別される特定の個人の数の合計が過去6ヵ月のいずれの日においても5,000人を超える会社)」です。しかし、厚生労働省が定めた「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱を確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平16年厚生労働省告示第259号)では、「個人情報取扱事業者以外の事業者であって、雇用管理に関する個人情報を取扱う者に対して、個人情報取扱事業者に準じて情報の適正な取扱の確保に努める」よう要請しています。雇用管理の実務上は、本人の同意なく個人情報を第三者に提供するのは避けるべきです。

諭旨退職した人間が、退職時に、退職事由の第三者提供に同意するとは思えません。ですから、照会が未たときには、相手先(募集企業)で、本人から同意を得るよう要請するのが適切です。相手先企業から同意書のコピー等を送付してもらったうえで、回答することになります。おそらく本人は同意を拒むでしょうから、重ねて照会が来ることはないはずです。後は、募集企業と本人の間の問題です。

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