判例 腰痛で会社に損害賠償 (2007年6月号より抜粋)  
   

 

 
 

職務転換の検討怠った 安全配慮義務に違反

腰痛は業務との因果関係が分かりにくいため、一般的に会社は従業員の訴えに対し軽視する傾向があります。補償目当てで痛みを誇張する悪質なケースもありますが、うそ偽りでなく、現実に腰痛の症状が現れているのなら適切な対応を急ぐ必要があります。本事件では、安全配慮義務違反等を理由として、会社・経営者に損害賠償の支払いが命じられました。

Oサービス事件 那覇地方裁判所沖縄支部(平18.4.20判決)


同じ腰痛でも、重量物運搬中の転倒など災害に起因する場合には、話が単純です。しかし、長年、腰に負担のかかる業務に従事したという場合、因果関係の立証は困難です。医者が器質的な問題はないといっても、本人が不定愁訴(本人にしか分からない痛み)を繰り返すパターンなど、まさに担当者泣かせです。

もちろん、非災害性の腰痛が、労災認定されるケースもあります。「業務上腰痛の認定基準」(昭53.3.30基発第187号)では、業務上腰痛と認められる例のひとつとして、「おおむね20キログラム程度以上の重量物または軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務に3ヵ月から数年従事して発症した場合」を挙げています。

原告の女性は、配置転換後、20キログラムを超えるダンボールを台車に乗せ、一時保管場所に運び、積み上げる業務等に従事していました。新しい業務に従事後、すぐに腰の痛みを訴え、病院受診、休職、復職というパターンを繰り返しました。

労働基準監督署は、前記腰痛の認定基準を満たすとして、労災後遺障害と認定しました。この女性は、行政のお墨付きをもらったうえで、さらに会社等に対し損害賠償を求める訴えを起こしたわけです。

会社も、見て見ぬ振りをしていたのではありません。最初の長期休職後、本人が職場に復帰した際、ダンボールの保管場所を変更し、移動距離を短縮する措置を講じました。さらに、ダンボールを積み上げる作業等を廃止するなど、業務内容の軽減も図りました。

しかし、裁判所は、会社の安全配慮義務達反を認め、損害賠償を支払うよう命じました。問題となったのは、女性が腰痛により休職・復職を繰り返していたのに、産業医の意見を聞いたり、就労を制限したり、職務の分担を変更したりするなど、人事・業務上の配慮を行わなかった点です。女性の本音は、「配転前のデスクワークに戻すなど、仕事を変えてほしい」だったのでしょうが、そうした点の検討も怠っていました。

デスクワーク等への転換がムリな場合、事業主としてどんな対策を採っていれば、安全配慮を尽くしたといえるのでしょうか。この点で、参考になるのは、「職場における腰痛予防対策指針」(平6.9.6基発第547号)です。日々の作業管理については、機械の省力化、作業姿勢の矯正、休憩付与、補助具の使用等を検討すべきです。そのほか、健康診断など健康管理(それに基づく事後措置も)、腰痛予防体操、労働衛生教育等の対策も講ずべきでしょう。



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