判例 変更解約告知の適用例と認めず (2007年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

実態は整理解雇と判断 人選に合理性を欠く

経営合理化の手法のなかで比較的新顔に属するものに、「変更解約告知」があります。しかし、必ずしも判例上の扱いが統一されているわけてはありません。本事件で、会社側は変更解約告知に同意しなかった従業員を解雇しましたが、裁判所は、実態は整理解雇に該当し、必要な要件を満たさない以上、処分は無効であると判示しました。

K金属工業事件 大阪地方裁判所(平18.9.6判決)


変更解約告知とは、「新たな労働条件による再雇用の申し出を伴った労働契約の解約の意思表示」(菅野和夫「労働法」)を意味します。経営が苦しいとき、「労働条件を引下げる新たな再雇用契約を結んでくれませか、ダメなら解雇するほかありません」と迫るわけです。

ドイツではキチンとした法律の規定がある(前掲書)そうですが、日本にはまだ存在しません。ですから、まだ扱いが確立していない面も見受けられます。

しかし、「新契約締結の申込みが解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、解雇回避努力が尽くされているときは、解雇可能」(スカンジナビア航空事件、東京地決平7・4・13)という判例もあります。これが認められれば、事業主にとっては使い勝手のよい仕組みです。

本事件は、この変更解約告知を用いて、経営合理化を図ろうとした「先行例」の一つです。しかし、結果は無残にも裁判所から全面否定されてしまいました。やはり、法律的な議論をもう少し煮詰めてから、緻密な戦術を立てる必要があるということでしょう。会社は人員削減策の一環として、「勤続25年以上の全従業員を対象に、変更解約告知を行う。ただし、告知に同意した全員を採用する保証はしない」という内容の施策を発表しました。結局、同意者はゼロで、10人の解雇が決まりました。

会社側のロジックは、「これは変更解約告知に基づく措置で、再雇用に応じるか否かのイニシアティブは労働者の側にあるのだから、非同意者の解雇はやむを得ない」というものですこしかし、実際には巧妙に仕組んだわなで、「変更解約告知に応じて新規採用に応じた者は、いったん全員採用されるものの、同じ日に最低六人の整理解雇が予定」されていました。これが、「全員を採用する保証はしない」という意味です。

当然、裁判所は、「変更解約告知が労働条件の変更のみならず、一定の人員については再雇用しないことが予定されている場合には、整理解雇と同様の機能を有することになるから、告知に応じない者が多数生じたからといって、人員整理の必要性により本来許容されるべき限度を超えて解雇が行われることは許されない」と断じました。そのうえで、整理解雇の要件である「合理的な人選」が行われていない以上、10人全員の解雇は無効と判示しました。

本件は、変更解約告知の「看板に偽りあり」で、正当な行使例といえません。さらに、適切な判例が増えるのを期待しましょう。

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