判例 パート勤務の労働時間も通算 (2007年11月号より抜粋)  
   

 

 
 

正社員としても働く 8時間超なら割増が必要

1日の法定労働日時間は8時間で、これを超えて働かせれば割増賃金を払わなければいけません。それては、正社員として8時間勤務するほか、パートとして2時間働いたらどうなるのでしょうか。もし、これて割増の支払を免れるのなら、経営者にとって工夫の余地が大きく<広がります。しかし、結論的には、ごく当然の話ですが、裁判所は割増の支払を命じました。

Cビル管財事件 東京地方裁判所(平18.7.26判決)


最初から、正社員勤務とパート勤務を組み合わせることで、時間外の支払を免れようとしたのなら、その経営者は相当な「ワル」といえるでしょう。

本件では、実は、最初に2時間半のパート契約(18時から20時30分まで)が存在し、後からそれに加え、正社員契約(22時から翌日6時まで)を結んだという経緯があります。そうしたなかで、結果的に、時間外の支払がなされないという事態が生じました。

しかし、万が一にも裁判所が「割増不要」と判定してくれれば、経営者サイドにとっては朗報です。時間外割増の削減を狙って、さまざまなスキームを組む道が開けます。

掛け持ち勤務をしていた従業員は、「両契約は統一して考えるべき」だと主張し、時間外割増を請求しました。

これに対し、裁判所は、原則として「パート契約は時給で、正社員契約は日給月給であり、しかも、両者の金額は異なるなど、両契約には本質的要素に差異があり、あくまで別個の契約と解するのが相当である」と断じました。

しかし、「全く別個で、相互に無関係ということはできない。当事者が同一、就労場所が同一であるなどの事実が認められる」と保留条件を付しました。

これら諸事実に照らし、最終的には、「従業員は、正社員として就労義務を負っており、これに加えて、パートとして働くのは、正社員業務の時間外労働、換言すれば早出残業をしていると位置づけるのが相当である」という判断を示しました。つまり、パートとして働いた分については、割増賃金の支払いが必要という結論になります。

ところで、判決文では、「以上のように解するのが、労働基準法第38条第1項の法の趣旨にも合致する一と述べました。労基法第38条第1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、通算する」と規定しています。

ですから、「両契約を統一して考えるべきか否か」を論じるまでもなく、2つの契約に基づき働いたら、割増賃金の対象になります。さらに、「事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれる一(昭23・5・14基発第769号)という解釈例規も存在します。

そういう意味で、最初から会社側に勝ち目はなかったといえます。本判決は、その当然の事理を明らかにしただけでなく、「正社員勤務が本体業務で、パートは時間外」という形で勤務内容を整理をし、時間外算定単価をパートの時給とした点に特色があります。



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