判例 社内飲酒後も通勤災書と認定 (2007年12月号より抜粋)  
   

 

 
 

出席強制の命令あった 酒は意見交換の潤滑剤

社内で「飲酒会合」後の事故を通勤災害と認める判例が現れました。上司から出席を命じられた点、会合の目的が業務の円滑な遂行を図るためだったことなどが、ポイントとなりました。これて直ちに「飲み会」すべてが業務に変わるわけてはありませんが、微妙な境界線についてひとつの基準が示された点が注目されます。

C労基署長事件 東京地方裁判所(平19.3.28判決)


ある会社では、上司から強引に飲みに誘われることを「ドナドナ」と呼んでいるそうです。「ドナドナ」の歌詞は、意に反して市場に売られていく子牛の気持ちを表すものですが、飲み屋に引きずられていく部下の心境をそれになぞらえたものでしょう。

社内で、あるいは会社の近くで酒を飲み、その後、帰宅の途についても、一般にその経路上の事故は通勤災害と認められません。「ドナドナ」タイプの飲み会の場合、部下にとっては「仕事」という意識が強いのでしょうが、労働基準監督署はそのように判断をしてくれません。

しかし、本事件は、その「飲み会も仕事のうち」という主張が採用された注目例です。問題の「会合」は、社内で行われました。判決文によれば、「毎回、事務管理部の部員を中心に、7〜8人が出席し、その費用は一般管理費会議費として会社が負担し、そこで懇談される内容も、業務上の問題点、不平不満、トラブルの対応策、業務の改善案、他部門に対する苦言等業務に関するものであった」ということです。

ここまでは良いのですが、「(会合は)酒類の提供を伴うものであって、慰労、懇親の趣旨も含まれていることは否定できない」「被災者(原告の夫)は、(飲酒の後)、午後九時ころから居眠りをしていた」といった状況がありました。

会合終了後、当人は最寄りの地下鉄階段で転落、死亡してしまいました。妻は通勤災害を申請しましたが、労基署から不支給処分を一受けたため、提訴したものです。

裁判所は、「当人は部長から命じられて毎回出席し、ほぼ開始時から終了時まで参加していたのであるから、一般には参加が任意であるとしても、当人にとっては職務に当たる」「会合が酒類の提供を伴うものであるとしても、それは忌憚のない意見を交換するためであると解される」という理由で、業務性を肯定しました。

参加者に賃金が支払われていなかった点についても、「副長以上の職員に対しては時間外手当が支給されず、その他の職員に関しても時間外申告の上限が設けられていたため、申告者がいなかっただけ」なので、業務に当たらないという証拠にはならないと述べています。「居眠り」についても、「風邪をひき、前日までの睡眠不足のため体調不良であった」せいであると、寛容な態度を取っています。本

裁判をみて、「私の夫も通勤災害では?」とねじ込んでくるご家族もおられるでしょうが、あくまで個々の事情に照らし、ケースバイケースで判断される点をよく説明してあげてください、


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